第10回 桶屋が儲かるまでには

前山 光則
   
 今日も雨が降る。じめじめするが、梅雨に入ったのだから仕方ないか。本を読んだり、机のまわりを整頓したりして過ごしている。雨が多い代わりに紫陽花が美しいし、雨蛙の鳴くのも聞いていて気持ちいい。

▲紫陽花には雨が似合う

 最近読んだ澤宮優・著『昭和の仕事』(弦書房)は、たいへん面白かった。戦後から昭和30年代にかけてはまだ存在し、その後、日本に高度経済成長の大波が押し寄せて消えてしまった仕事、その数なんと140種に上るというから驚く。

 この本の中で、著者は「おおよそ終戦後から昭和三十年までの仕事を調べてゆくと、圧倒的にものを修理する職種が多いことに驚かされた」と指摘している。そこにあるのは、「もったいない」の精神だ。かつて日本人は物を大切にして生きていたのだ。だからこそ物を作ることにも誇りが持てた。それが急速に失われた果てに現代の、便利ではあるもののちっとも手応えのない世の中がある。この『昭和の仕事』は、だから、面白いだけでなくとても考えさせられる本である。
消えてしまった仕事のすべてについて説明がちゃんと施されており、いわば「昭和の仕事大事典」的な性格も備わっている。試しに、

 炭焼き 作男 担ぎ屋 ポン引き 紙芝居屋 ドブロク屋 書生 隠坊 桶屋 しょうけ作り 三助 木地師 ねこぼくや テン屋 傷痍軍人の演奏 ニコヨン カンジンどん まっぽしさん 蛇取り師 サンドイッチマン 産婆 札売り 車力屋 おりや 下足番
 
 ……さて皆さん、いくつ知ってる?「若い者にはこうした仕事は分からんだろう」と高齢者は言うかも知れない。だが、それならばたとえば「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがあるが、なぜ風が吹いたら桶屋さんが儲かっていたのか、説明できるか?高齢者であっても知らない人が多かろうと思う。でも、ご心配なく!この本の62ページから63ページにかけて親切に説いてある。至れり尽くせりである。 
(2010年6月15日)