連載コラム: 『本のある生活』 2012.01.19

第83回 続・香港へ行ってきた

前山 光則

 旅の3日目、娘はショッピングするといってひとりで街へ出かけた。女房とわたしだが、女房が「中国本土の手前まで行ってみようか」と言いだしたのである。ああ、うん、そうだな、境界線あたりか、ぜひ見てみたいもんだ、というわけで街の中心部から電車に乗った。
 最初はまったくの都会的風景だったが、やがて山や川が現れ、山の斜面や麓にはマンション群があったりしていかにも新興住宅地といった印象である。そうするうちに、ある駅では多数の人が乗り込み、彼らは電車内で自分たちの担いで来た荷物を分け合ったりまとめ直したり、ワイワイガヤガヤであった。そして、約40分後、香港特別区側の最後の駅、羅湖(ロウ)に着いた。中国本土へ行く人たちはここで乗り換えである。遠くの方にビルが林立するのが見えて、あれは中国本土側の大都市かな、と考えながら改札へ向かうと、拒否された。パスポートを提示しても駄目で、どうも事前に然るべき手続きを踏んでいれば外へ出られるのだろうが、ただ単にフラリと来てもダメらしい。羅湖駅前をぶらつきたかったのに、残念ながら引き返すしかない。
 その代わり、羅湖の一つ手前の上水(シェンシュイ)という駅では下りることができた。ここは駅ビルの横に大きなデパートもあって、しかもその1階には、なんとわが熊本の代表的ラーメン屋の支店まである。それもしゃれたレストランという感じで、周囲の洋装店等と並んでいても違和感がない。
 そのようなあか抜けした雰囲気の駅前から街へ入り込むと、様子がガラリ変わった。狭い路地が入り組み、大小様々な店がひしめく。魚類の干物等の匂いが強くただよう。買い物客で混んで、元気な声が飛び交う。ちょっと広くなった所には小祠に神様が祀られ、そのかたわらでは人がたむろして将棋のような遊びをしている。激しく罵りあう者たちもいた。
 ある店の入り口に置かれた大きな袋の中に、なんだろう、豆腐か油揚げを薄く伸ばして乾かしたようなものが詰められている。店の若い男に向かってそれを指さして、「これ、何だ?」という顔をしてみせたら、ペラペラ答えてくれる。だが、分からない。「豆腐?」とメモ紙に書いてみたら、彼は笑ってわたしのボールペンをひったくり、「猪皮」と記してくれた。「猪」は中国語で豚のことだ。ほう、豚の皮の干物か。納得して頷くと、彼も他の者も初めてわたしたちを日本人と気づいたらしく、「ヤーポン、ヤーポン」と嬉しそうだ。「イッチ、ニ、サン」とも言ってくれて、俺たち日本語も少しは知ってるからな、とでもアピールしたかったのだろう。いやあ、来てみた甲斐があった。ホントによかったゾ。
 そう言えば、沢木耕太郎が昔書いた『深夜特急』という本に、香港の返還前、中国本土との境目あたりへ出かける話が書かれていたなあ。日本へ帰ったら読み返そう、と思った。

▲羅湖駅内にて。大勢の人たちが検査をパスし、改札を出て、乗り換えホームへ移って行った。今、あたりはガランとしてむなしく静まりかえっているのだった

▲公園にて。何組もの人たちが将棋のようなものをしていた。遊びでなく、どうも賭け事なのである。だから揉め事も起こる

▲乾物店。明るい声で「ヤーポン、ヤーポン」を連発した彼ら。初めのうち、わたしたちを同じ中国人と思っていたようなのだ

▲路地の奥にて。こんなに奥まで入ったら戻れなくなるのじゃなかろうか、とゾクゾクしながら路地を進んで行くと、ある衣料品店で女の子が留守番をしていた。かわゆいー!
こんなのもアリマス

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