連載コラム: 『本のある生活』 2012.11.16

第122回 クロツラヘラサギを視る

前山 光則

 このところ冷えてきた。朝の散歩も、午前6時過ぎに家を出るとまだうす暗いし、土手へ出て風でも吹いていればつらいものがある。それで、11月12日は時間を遅らせて、朝食の後、9時前頃から家を出たのだった。
 家の近く前川の土手を30分ほど歩いて、河口で海を眺めた後、帰りかけたら、土手下に車が停まった。中から望遠鏡やカメラや三脚を抱えた男の人が降りてきて、こっちへ歩いてくる。小柄ながらがっしりした体つき、高野茂樹さんだ。高野さんは生物学が専門で、特に野鳥の研究で知られている人である。ハッと思い当たって海の方を振り返ると、今、満潮。岸から100メートルほどのところに葭(よし)の生えた州(す)があり、そこに黒い鳥と白い鳥がそれぞれかたまってうごめいているらしいのが見える。「今から野鳥観察でしょ?」と聞いたら、「はい、クロツラヘラサギを」とのこと。やはりそうであった。
 そして高野さんの野鳥観察が始まった。三脚の上に据えられた望遠鏡は、とても精密なものであった、州の方に焦点を合わせてしばらく観察した後、「結構いますよ。ひとつ、どうぞ」と勧めてくれるので覗き込んでみると、肉眼ではごま粒ほどにしか見えない鳥たちが、すぐ近くにいるかのようにはっきり大きく映る。黒いのは鵜(う)で、数えきれぬくらい多い。その後ろに、体は白いけどくちばしが黒くて篦(へら)のようなかたちをしている鳥。クロツラヘラサギだ。「23羽います」と高野さんが言う。家にいる女房にも見せてやりたくて携帯で連絡したら、「すぐ行く!」、わたし以上に反応して駆けつけた。
 高野さんの説明では、クロツラヘラサギの棲息数は世界中でわずか2500か2600羽ほどで、夏は黄海の中の無人の島々にいるのだそうだ。あのあたりは韓国と北朝鮮との境い目になろうが、えらく緊迫した海域で夏を過ごすのかと思うと鳥たちがいとおしくなってしまう。日本へは10月末頃に渡ってきて、熊本県内だと白川・緑川・砂川・氷川等の河口で冬を越す。4月末頃に帰っていくのだという。もう一度望遠鏡を覗かせてもらったが、この鳥はくちばしが実にかわゆいな、とあらためて思う。潮が引けばこのくちばしでモゴモゴと干潟をあさるのだろう。
 帰宅後、日本野鳥の会発行の『フィールドガイド日本の野鳥』を開いてみたら、クロツラヘラサギについて「まれな冬鳥として、水田、湿地、浅い水たまり等に渡来する。単独か2羽のことが多い」と記されていた。実際、今まで1度に2羽か3羽しか見かけたことがなかった。それが今回あんなに多く観察できたわけで、専門家と一緒だと良いものが見れるなあ、と、満足だった。高野さんに感謝!
 付近の川や浜には、最近、鴨の姿も多く見かける。これから寒くなるばかりで散歩するのも切ないが、愉しみは尽きないなあ。

▲クロツラヘラサギと鵜。州の中でうごめいている鳥たちの群れの、これは一部。彼らの動きを細かく観察できて、楽しかった(高野茂樹さん撮影)

▲前川河口。画面の真ん中に小さく見えている州でクロツラヘラサギや鵜が遊ぶのである。高野さんの良いカメラだと㈰のようにズームで大きく撮れるが、わたしの安物カメラでは無理である

▲飛び立つ鴨たち。鴨たちが岸辺でのんびり遊んでいたからカメラを向けたら、すぐに飛び立った。彼らはやはり用心深い
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