連載コラム: 『本のある生活』 2013.09.17

第161回 『昭和の貌』出来上がる

前山 光則

 熊本県八代市在住の麦島勝(むぎしま・まさる)氏の写真集『昭和の貌(かお)』(弦書房)が、このほど出来上がった。3年前にこの連載コラム第5回「昭和が匂い立つ」で麦島氏の写真のことに触れたが、あの頃から本作りに係わっていたわけで、ようやくたどり着いたなあ、と、しみじみした思いである。
 氏の昭和20年代から30年代にかけての写真335点が、「昭和の町」「仕事」「海辺に暮らす」「川の記憶」「祭り」「高度経済成長の夢」「子どもたち」の7つの章に分けて収められている。書名や章ごとのタイトルで窺えるように、日本が高度経済成長を果たしつつあった時期、人々がどのように生活していたかふり返ることができるのである。各章ごとにわたしのエッセイが付してあるが、これは「解説」ではない。わたしはあの時期に幼少年期を過ごした団塊の世代で、麦島氏の撮った写真を見ると色々の思い出や所感やらが湧くので、それを綴ってみただけである。
 麦島氏の写真は、世代や育った地域を問わず人々にあの頃の記憶を呼び覚まさせてくれるはずである。その証拠に、8月30日から9月3日まで八代駅前の喫茶店ミックで出版記念の写真展が開かれたが、老いも若きも観に来ていたし、よその土地で育った人も写真に惹かれて自身の思い出を語っていた。氏の写真の特徴は、まず、必ずといっていいくらい人物が入っており、さらに時代を表わす物がどこかに写っている。写された時はなんでもないスナップ同様のものにしか感じられなくても、時を経て眺め直してみると、ありありとその「時代」が刻印されているのである。
 この写真集を編むために、編集者もわたしも数え切れない回数で麦島氏に会ってきた。その都度、氏は「こういうのがあるバイ」と写真の束を示された。氏の住まいには昔から撮り溜めた写真群がしまいこまれている。無尽蔵である。会うたびに写真を見せられているうちに、「麦島さんとかけて何と解く」と問答をするならば「球磨川水源地と解く」、こう答えたいな、と考えるに至った。その心は?……「次々に止めどなく湧いて出る」。麦島氏がいつも必ず色んな写真を取り出してくれるのは、深い山中からどっと湧き出す球磨川の水源地の様相を思い起こさせる。
 9月10日から16日まで八代市立図書館で「第10回市民写真展」が催されたので、初日、さっそく観に出かけた。会場の一画に特別コーナーが設けられていた。麦島勝氏の昭和30年代撮影の写真12点が、「海と川の暮らし」と題して展示されていたのである。球磨川の井堰下で鮎の稚魚を掬い上げる場面や八代港が造られる最中の作業風景、子どもらが海苔船で遊ぶ情景等々、初見のものばかりであった。これをもっと早く見せてくれたら『昭和の貌』に収めるのだったのになあ。やはり麦島勝氏は「球磨川水源地」である!

▲くつろぐ麦島勝氏。「第10回市民写真展」初日、受付に麦島氏が坐っておられた。86歳でこの元気さである。たまたま他に誰もいない時を狙って、パチリ

▲麦島勝特設コーナー。展示してある12点は麦島氏の撮った「昭和」である。しかし、それを見入る人たちにとって共通の記憶がそこに蔵されている。写真の前でペチャクチャとえらく話が弾んでいた
こんなのもアリマス

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