第170回 妙見祭を観る

前山 光則

 祭りは愉しい、と思う。しかし、わたしなどは八代市にもう三十数年住んでいながら、なぜか伝統的な八代神社(妙見宮)の秋の大祭をみっちり見物したことがなかった。それが、今年は千葉県船橋市からY嬢が祭りに合わせて遊びに来てくれたので、ぐんと違った。
 第一、11月22日の夜に町の中心部アーケード商店街で行われた御夜(前夜祭)を初めて観たのである。Y嬢とうちの女房とわたし、3人連れで行ってみたが、アーケード内の各所に神幸行列の山車(だし)である9町内の笠鉾全部が据えられ、さらにあっちこっちで神酒が小コップに注いでふるまわれる。イベント広場では高校生たちの和太鼓演奏が始まったりして、いや、もう充分に普段とは違った祭り空間が出来上がっていた。3人ともすっかり浮かれてはしゃいだのであった。
 翌日は祭り本番だ。朝から神幸行列がアーケード街の近く塩屋八幡神社を出発して町外れの八代神社まで練り歩くので、Y嬢と一緒に途中の様子を見に行った。秋晴の空の下、ハーモニーホールというところで行列が休んでおり、飾り馬が何頭もいた。馬の鼻の頭を撫でさせてもらい、それだけで祭りに参加できた実感がジワーッと湧く。ポニーが子どもたちと歩いたり、子ガメ(亀蛇)が親ガメについて舞ってみせるのも観ていて飽きない。
 そして、お昼時になって3人連れで八代神社近くの友人宅へ顔を出すと、すでに先客たちが御馳走をつつき、焼酎を呑んで盛り上がっている。やがて、付近の水無川の河原で馬やガメが走るのを観に行くことになった。行ってみたら、ガメが荒々しく舞ったり、ユーモラスに観客に挨拶する場面が展開中だった。観客がいっぱいでよく見えないが、それでも昂奮の渦は充分に伝わる。河原でのこの非常な盛り上がりは今まで見物したことがなかったので、今回はほんとに良いものを観た。
 Y嬢は目鼻立ちのすっきり整った美人で、スタイルも良い。そのY嬢のことを、同行した友人S氏が、知り合いに出会うごとに「この方は女優の北川景子さんでな、お忍びで祭りを観に来なはったとバイ」とホラを吹きまくった。笑って受け流す者もいれば、素直に信じ込む紳士も多かった。まあ、祭りだからな。これくらいの悪戯は許されてよかろう。
 河原での見物の後は神社へ立ち寄って参拝し――といっても、たくさんの参拝者の後方から御神殿へ柏手を拍ってお茶を濁しただけだったのだが、あとはまた友人の家に引き返して夜の7時過ぎまでいて愉快に呑んだ。そう、考えればこうして酒ばかりくらうから今まで祭りをみっちり観ることがなかったわけだ。むろん、皆で仲良くワイワイガヤガヤ呑んで騒ぐのも、これはこれで祭りであればこそのことであるのだ。でも今回はY嬢が遊びにきてくれたから、自分も呑んだくれるだけでなく熱心に見てまわった。Y嬢に感謝!

▲ガメ(亀蛇)。御夜が行われているアーケード街の近くで、ガメがいた。町なかのあちこちを挨拶して廻るのである

▲アーケード街での御夜。いつもはあまり人通りの多くない商店街も、この夜はえらく賑わった

▲砥崎(とさき)の河原。水無川の河原である。祭りの時は、毎年、午後からここで馬やガメの演舞や走りが観られる。大賑わいである

▲八代神社(妙見宮)と参拝客。画面のずっと奥に神社本殿がある。写真に写っている参拝者の列は、全体のおよそ半分ほどである