連載コラム: 『本のある生活』 2014.03.07

第178回 2月27日、熊本にて

前山 光則

 2月27日は、第35回熊日出版文化賞贈呈式とその後の昼食会「ブックコミュニケーション~郷土の本・著者の集い」に出席した。 朝の8時半にはわが家に麦島勝さんと弟さんがわざわざ迎えに来てくださった。弟さんの車に乗せてもらい、熊本へ。会場のホテル日航熊本へは10時少し前に到着した。弟さんは「あとで迎えに来るよ」と言って、街へ買い物に出かけられた。開会が11時だからえらく早く着いてしまったわけだが、麦島さんもわたしも「ま、遅刻するよりもマシたい」とうそぶいて、ホテルロビーでゆっくりと時を過ごした。福岡の弦書房社長が到着したのが10時40分頃だったろうか。3人が揃ったので、余裕を持って会場へと入った。
『昭和の貌《「あの頃」を撮る》』が熊日出版文化賞を受けたのである。受賞したのは、この本と坂本直充『光り海』と坂口恭平『幻年時代』、そして自費出版の本に贈られる「マイブック賞」に荒川治之『ありがとう 病床より』。この四作である。選考経過について説明があったが、『昭和の貌〈あの頃〉を撮る』は最終選考会が始まって最初にすんなりと決まったようである。麦島さんが撮り溜めてきた写真群の中から昭和20年代・30年代にしぼり込んでまとまられたこの写真集、高度経済成長のさなかにあって当時の日本人がどのように生活し、どんな表情で過ごしていたかをまのあたりに辿ることができる。こういう点が選考員たちに強烈な印象を与えたのである。麦島さんは、昔「写真は文化ではないですばい」と冷たくあしらわれた時期があり、口惜しい思いをしたそうだ。だが今は違う。麦島さんの記録写真は高く評価された。
 贈呈式の時もその後の昼食会でも麦島さんは受賞者として挨拶に立ち、「私は戦争で死なずに、生き残ることができました。写真を撮り続けてきたのは、生きられることへの感謝の念からでした」と、自身の思いを吐露された。麦島さんは昭和2年生まれで、戦争が終わった時には18歳であったことになるが、一兵士として長崎県の小島で本土防備の任務について間もなく、戦わずして平和が戻ってきた。生きて在ることがいかにかけがえのないことであるか、その思いを持続させる、これが麦島さんの写真家としての一等深いところにある……、ジーンとなったのであった。
 弦書房の本は、去年も『球磨焼酎《本格焼酎の源流から》』が熊日出版文化賞を受けた。この本を持っている人はぜひ書棚から引っぱり出し、表紙に注目してもらいたい。知らぬ同士がバスから身を乗り出して焼酎のやりとりをしている場面、あれは麦島勝さん撮影による逸品だ。贈呈式の後の昼食会でははじめビールばかりだったが、会の終わり頃になって焼酎がまわってきた。「やっぱ球磨焼酎は良かなあ」、麦島さんはきわめて御機嫌であった。それで、あらためて球磨焼酎で乾杯!

▲喜びあふれる麦島勝さん。贈呈式が終わって、会場の横にある部屋で熊本文化懇話会主催による昼食会「ブックコミュニケーション~郷土の本・著者の集い」が催された。画面右側が麦島さんである
こんなのもアリマス

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