第185回 旅番組を観る

前山 光則

 最近、家の者から「いつも旅の番組ばかり観るね」と言われた。「うんにゃ、そぎゃんことはなかよ」と反論したものの、さて自分の好みのテレビ番組は何だったか。必ず観るのがNHKの総合テレビ「鶴瓶の家族に乾杯」とBS3「にっぽん縦断こころ旅」である。3番目に民放の「開運! なんでも鑑定団」、それも毎回欠かさずというのではない。だから家の者の指摘は一応当たっているわけだ。
 「鶴瓶の家族に乾杯」は、鶴瓶やゲストが事前のアポなしで旅先をウロチョロするので、そのハプニング性が実に新鮮である。わたしのふるさと人吉市でも、2年程前、知り合いの焼酎醸造元に鶴瓶が突然現れたので「いやあ、あん時はたまがったですよー」と今でもその時のことが語り草になっている。近頃は民放でも同じやり方を真似するようになった。でも、やはり「鶴瓶の家族に乾杯」を超えられないのであり、つまりなんと言っても笑福亭鶴瓶の誰と出会っても自分のペースに引き込んでしまう語りかけ方、笑わせ方、これが魅力なのだと思う。ゲストの人選にも毎回変化がある。そして、最初2人で旅先を歩き回るが、やがて二手に分かれて歩き回るのもそれぞれの好みの違いや面白味が生じてくるので、番組の最後まで目が離せない。
 視聴者から思い出に残る場所について綴った手紙を募集し、そこへ訪ねて行くというやり方で続いているのが「日本縦断こころ旅」だ。人それぞれ大切な景色・風物があるものなのだなあ、と毎度感心する。火野正平を中心とするチームが自転車を漕ぎ、時には電車にも頼りながらそこへたどり着く。自転車と一緒に電車に乗る「輪行」という語は、この番組を観るようになって初めて知った。そして、火野は鶴瓶みたいに誰とでも仲良くするタイプではないが、かわいい女性がいれば途端に相好を崩すのが正直で良い。小さな生きものや植物を見つけて道草を食うのも、好感が持てる。60歳を越えているというのに、自転車で一日に何十キロも走行するからタフである。その反面、高所恐怖症で、高いところに架かる橋を渡るときなど途端にオロオロ怯えてしまうのが同情をそそる。上り坂をフーフーと辿って、下りになったら上機嫌、「人生下り坂サイコー!」と叫ぶのも見せ場だ。
 繰りかえし言っておくが、旅番組にばかりかじりついているのではない。いったい、旅番組は、今、多すぎる。路線バスだけ辿って旅をするとか、ローカル線を訪ね歩く旅とか、番組の趣向も様々である。ただ、起用されたタレントがつまらないと、どんなに魅力的な土地を巡っても番組は盛り上がらない。まして、名物料理や旬の物ばかり食べ歩き、どんな場面でも褒め上げて満足げな顔をしてみせるのには飽き飽きである。ひいき番組が限られてしまうのは致し方ないことであろう。
 それにしても、ほんとは自分が旅したい!
 
 
 
写真 球磨川

▲球磨川。ここから約1キロ下れば、不知火海である。3月中旬頃まで、この河口あたりでは青海苔採りが行われていた。今は、若鮎がさかんに川を上っていく。6月になれば鮎漁も解禁である