file21 上田蚕種協業組合事務棟

市原猛志
 
【上田蚕種協業組合事務棟(1917年竣工)/木造2階建】
 
 信州大学の正門から裏手相当になる県道79号線沿いに、木造二階建のいかにも古そうな建物が見えたので、大学の裏門から道路を渡り、その詳しい経緯もよくわからないまま訪れてみた。附属的につけられた平屋部分と裏側の建物群をのぞけば、左右対称で同年代に竣工した建物群と比較すると、装飾の少ないつくりをしているが、窓周り上部にはトライアンギュラーペディメント(三角切妻)が取り付けられているなど、近代建築の雰囲気を漂わせるつくりがそこかしこにあり、なかなか見ごたえがある。
 中でも一番気になるデザインはその正面ど真ん中部分にある。玄関上部の庇妻部には写真のように不思議なマークがついており、これはいったい何ものかとしばし考えたが、どうやらカイコガをモチーフとした紋章だと気づくと、これもまたほほえましい。今も繊維技術で日本の最先端研究を行う信州大学とともに、上田という都市が養蚕で栄えていたことを今に伝える重要なサインといえよう。
 
 
 
上田蚕種協業組合事務棟。大正期の造りながら、窓が大ぶりで和洋折衷の趣も。

▲上田蚕種協業組合事務棟。大正期の造りながら、窓が大ぶりで和洋折衷の趣も