連載コラム: 『本のある生活』 2017.06.21

第298回 阿寒湖畔にて

前山 光則

 5月24日、午前8時には釧路の宿を出発し、マリモで知られる阿寒湖を目指した。
 午前9時過ぎ、釧路湿原の東の端っこ温根内(おんねない)ビジターセンターに立ち寄った。センター付近の木道(遊歩道)へ下りてみたが、湿原は広いひろい。説明板によればヨシやスゲ、ヒメカイソウ、ミツガシワ、エンコウソウ、ヤチヤナギ等々、珍しい植物が生育している由。よく保全された環境の中で植物が生育し、空気は澄んで、水もきれいだ。郭公が鳴く。他にも小鳥の声が聞こえた。
 阿寒湖畔に着いたのは昼の12時過ぎだった。沖に遊覧船が1隻だけ動いており、船着き場では若い男性が釣り糸を垂れていた。阿寒湖名物のマリモは見られなかったが、あれは水中にあるのだから簡単に目にしたいというのが無理な話である。湖畔の売店で昼食を済ませた後、アイヌコタンを歩いてみた。「コタン」とはアイヌ語で「村」を意味するそうで、実際ここはアイヌの人たちの集落である。民芸品屋や土産品店、料理店、喫茶店等がかたまっていて、あとでインターネットのウィキペディアを覗いてみたら戸数36、約120名とのことだ。ある民芸品店には「歓迎光臨」とか、あるいは「新婚さんいらっしゃい」「昔の新婚さんいらっしゃい」などと愉快な貼り紙を店先に出してあって、それならばわたしたちは「昔の新婚さん」だなあ。その店に入って、展示してある民族衣装の模様も色も好ましいのでキョロキョロ眺めていると、店の老女将が親切に対応してくださる。「模様の描き方にパターンでもありますか」と家の者が訊ねたが、そんなものはないそうだ。ただ、人それぞれの工夫で描かれ、紡がれているのだという。フーン。しかし、大和文化と違った独特の模様だし色合いだ。なんだか観ていて心が落ち着いてくるから不思議である。わたしたちが熊本県から来たと知って、昨年の地震のことを親身に同情してくれた。「阿寒湖アイヌシアター・イコロには、もういらっしゃいましたか」と訊ねられたので首を横に振ったら、「割引券がありますよ」とのことだ。そこではアイヌの古式舞踊が観られるのだそうで、さっそく買い求めた。
 阿寒湖アイヌシアター・イコロは、民芸品店から歩いて数十歩の近くにある。「イコロ」は「宝」を意味するそうだ。1時半から始まったが、個人の観光客だけでなく団体客も来ていて、結構な賑わいだ。説明役の老人の他、出演者は女性が7、8人、アイヌの伝統的衣裳に身を包んでいる。歌を口ずさみつつ、舞いを見せてくれた。歌の内容は、子どもの遊び歌だったり収穫の歌、豊猟祈願、祭りの祝い歌等である。それぞれについて老人が説明してくれるが、声があまり聞こえずよく分からなかった。しかし、舞手たちの声がきれいで長閑で、舞いそのものも至って素朴であった。見入っているうちトロトロと眠気を催してきた。気を引き締めても、油断すると朦朧としてくる。旅しはじめてまだ3日目だが、もう疲れが出てきたのかなあ。いや、だが、能楽鑑賞の時だって心地よい状態になり、ウトウトすることがある、ああいう状態に似ているゾ、などと考えながら眠気と格闘するうちに舞台は終了した。その間、30分程度であったろうか。
 心穏やかなひとときが過ごせた、と、イコロから出る時にはさわやかな気分であった。
 
 
 
①釧路湿原にて

▲釧路湿原にて。ビジターセンターを出てすぐのところ。右手に丘陵の裾が少し見えるが、昔はこの丘の裾を辿る工合に昭和42年まで森林軌道が通っていたそうだ。湿原としての保全が取り組まれる以前の湿原は、かなり盛んに開拓が行われたようである

 
 
②阿寒湖

▲阿寒湖。マリモで知られるだけでなく、ヒメマスやワカサギなどが多く生息するそうだ

 
 
③アイヌコタン

▲アイヌコタン。観光シーズンにはここは賑やかなのであろう。今は、オフ。静かな空気がただよっていた

 
 
④アイヌ民芸品店

▲アイヌ民芸品店。やはりこうした色やデザインは魅力的だ。日本的でなく、エキゾチックな雰囲気で、ありふれた言い方ながら「旅情」を覚えたのであった

 
 
⑤阿寒湖アイヌシアター・イコロ

▲阿寒湖アイヌシアター・イコロ。ここでは、舞踊だけでなく、人形劇が上演されることもあるという。また、屋外でイオマンテの火祭りも行われるそうで、そんな時は来てみたいものだ

 
 
 

こんなのもアリマス

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