その38 春は名のみの……

 やっと畑の雪が溶けた。でもまだ寒い。からりとは晴れない曇り日。時には氷雨が降る。
 先週、古い賽の神(道祖神)をさがしに近くの山にのぼった。江戸時代の賽の神は、石ころと落ち葉にかこまれ、ひっそりと旧道をそれた奥の方に鎮座していた。
 いまではもう祀る人もいないのだろう、かなり朽ちていた。
 旧道のまわりの木々はあの豪雪の重みにたえかねてあちこちで折れ、倒れていた。あたりまえのことだが、常緑樹ほど重い雪を支えきれず、倒れている。
 落葉樹でも裂けやすい木は裂けたり、折れたりしている。
 今日は近くの神社を訪ねると、やはり古木が裂け、折れていた。
「いやあ、参りましたなあ、今年の雪には」
 業者が入って修復作業をやっている。
「後始末がたいへんですよ。銀行に金借りに行かねばならん」
 宮司は渋い顔で嘆いていた。

 わが庭の梅のつぼみもまだ固く、春いまだし。
 冬枯れの畑でロウバイだけが、鮮やかな黄色で満開、芳香を放っている。
 背景が青空になれば、もっと映えるのだが、残念ながら灰色のことが多い。
 今年は例年になく鳥たちが畑に姿をみせる。餌がたりないのだろう。
 ヒヨドリ、ツグミ、メジロ……。キャベツとブロッコリーは彼らの餌場になってしまった。
 今朝はジョウビタキの子供がやってきた。全く警戒心がない。1メートルくらいまで近づいても逃げない。懸命に土をほじってはミミズなど土中の小虫をあさっている。まだ鳴かない。
 辞典をみると「人を恐れないのでバカビタキともいう」とある。ひどいことを言うなあ。隣家の爺が「チッ、チッ」と呼ぶと、まるで飼い鳥が餌をねだるように近づいてくる。
 冬枯れの畑、冷えた心身をつかの間、癒してくれる。

(出雲在・三原 浩良老)

▲満開のロウバイ

▲近寄っても逃げないジョウビタキの子供?