前山 光則
11月14日の朝、近所のAさんから家の者に電話がかかり、「隣り町の農業高校の文化祭を観に行きましょうよ」と誘われた。学校の実習で栽培した花の苗などが安い値で販売されるので得ですよ、とのことだ。家の者もわたしも、すぐに身支度して家を出た。
天気は良くなかった。農業高校へ着いたら、パラパラ降りだした。正門から入って間もなくのところにさっそく模擬店があって、うどんを売っている。おいしそうだったものの、さすがにまだ午前10時過ぎ。早すぎるので、他の展示を見てまわる。ステージでの演劇や吹奏楽演奏などの発表会は次の日に町の文化センターを会場にして行われるそうで、今日は展示物やバザーを愉しめばいいわけだ。Aさんは迷わず苗の売り場へ入って行ったが、食いしん坊の目には焼きそば店とか肉まん店、水餃子屋、焼き芋屋などが次々に現れる。どれもおいしそうで、いやいやまだ時間が早すぎるのだったな、と、落ち着かない。
ウロウロしているうち、「蜜柑狩りができますばい」との声がどこからか聞こえてきた。エッ、ここらは平地で、蜜柑山なんかずっと遠くまで行かなくてはならんのではないか。でも、違った。学校の敷地を奥へと進むと、畑地が広がっていた。そして、見渡せば、視界の左半分は蜜柑畑。畑の入口で男子生徒たちが受付をしている。剪定鋏を渡してくれて、蜜柑狩り一回につき500円、大きな袋にいっぱい詰め込んで持って帰っていいとのこと。年甲斐もなく胸がワクワクした。
雨が、それまで晩秋の時雨れっぽい降り方だったのが、本降りになってきた。蜜柑の木がよく茂っていてよく見分けきれないが、畑のあちこちで「こっちが大きいよ」「ぬかるんどるから気をつけんといかんバイ」「木によって実の太さが違うねえ」等々、人の声がする。中に「そぎゃん地面近くのを採ったっちゃ、うもうなか」「なして?」「上の方がよう日に当たるからね、甘味が出とるとバイ」母親と男の子との問答が聞こえた。そうか、良いことを知った。わたしも背伸びして、なるべく木のてっぺんの方に生っている実から先に鋏を入れた。やがて、離ればなれになっていた家の者を見つけた。まだ袋に半分ほどしか採れていない。わたしはすでにはち切れんばかりの状態であった。だから家の者の方へ次々に入れてやる。収穫の歓び、といえば大袈裟だろうか。栽培にはちっとも関わっていないのに、果実を採ってまわるのがこんなに愉しい。実際に手をかけ、丹念に蜜柑の木の手入れをしてきた教師・生徒たちは、どんなにか嬉しかろう。自分も35年間教師を勤めたが、大半を定時制で過ごした。2、3年でも農業高校に勤めてみるべきだったなあ。
帰る前にもう一度蜜柑畑へ行って、収穫は全部で3袋。家の者もわたしも、すっかり濡れてしまっていた。家に帰って蜜柑を計ってみたら、1袋6キロずつ詰まっていた。