前山 光則
今、心待ちにしていることがある。
10月21日(金曜)から、八代市立博物館未来の森ミュージアムで「写真家・麦島勝の世界―ただ、ひたすら、撮り続けた―」が始まるのである。12月4日(日曜)まで行われるので、会期はほぼ一ヶ月半ということになる。麦島勝氏が長年にわたって撮りつづけてきた膨大な写真群の中から164点を選び出して展示される他、氏の写真家としての活動がうかがえるような資料類も並べられる予定である。博物館の学芸員・石原浩さんがだいぶん前から企画し、麦島氏や関係者のもとへ通い詰めたりしながら地道に準備してきた成果が、ようやく公開されるわけである。
会場内では、「レールが夢を運んでくれる」「街はハイカラ」「川とともに暮らす」「大地に生きる」「賑わう湯のまち」「干拓地は新天地」「さよなら! 昭和」「天草・海からの恵み」「観光の花開く」「祈り・感謝・歓喜」「どこも子どもでいっぱいだった」「ある家族のヒストリー」といった12のテーマが設定され、観てもらうことになっている。石原さんを中心とするスタッフで麦島氏の仕事をつぶさに鑑賞し、選り分けていくうちに、氏の仕事ぶりの多彩さ、行動半径の広さ・深さに感心し、ため息が出る思いであった。だから、展示する際にも氏の写真家としての大きさをどうにか伝えなくてはならないだろう、ということになった。それで、こうした12のテーマ設定が出てきたのであった。撮られた時期は、氏の写真集『昭和の貌――《あの頃》を撮る』(弦書房)がそうであったように、おおむね昭和30年代から40年代へかけてのものが多くなっている。これはやはり昭和2年生まれの麦島氏が最も体力的に充実していたのがその時期であり、だから自然と作品の量も多かったのだと言える。そしてまた、それは自ずと日本の高度経済成長の時期であり、戦後生まれの世代が少年期から青年期へと育って行く過程だったのでもある。写真の記録性を重んじる麦島氏の活動は、そうした時代を活き活きと写し取っている。
さらに言えば、「さよなら! 昭和」とのテーマの中で展示される写真は、まず日本セメント株式会社の最後の姿である。大工場の残骸は平成16年に解体されたのだが、それより前、平成2年に会社の象徴であった大煙突が壊された。この時の迫力に満ちた写真を麦島氏が撮影しているのである。また、工場へ石灰石を供給していたのが八代港沖に浮かぶ大築島(おおつくしま)だが、ここでの人々の生活ぶりや無人島となってからの風景も麦島氏が撮っている。これらは今回はじめて公開されるものであり、むろん『昭和の貌――《あの頃》を撮る』にも収められていない。
この写真展の準備はわたしもお手伝いをしてきたので、ぜひたくさんの人たちに観に来てほしい。鑑賞する価値が必ずあると思う。