第14回 島へ行きたい!

前山 光則

 暑い、暑い。このコラム「本のある生活」第1回の時は屋根裏部屋にいたのだが、あれは春なお寒い2月のこと。屋根裏は早くからサウナ状態なので、1階の方で過ごしている。
 毎朝5時に起きて散歩する。家のすぐ近くを球磨川の分流・前川が流れている。その土手を河口へ向かって歩くと、遙か向こうに長崎県の雲仙岳が見える。左手に、不知火海をはさんで天草島や宇土半島。うっとりするが、ふと振り返ると東の空に太陽がするすると上がり、カーッと遠慮なくこの世を照らすのだ。

▲午前6時頃の前川の河口風景。
遠くにうっすらと雲仙岳が見える

 こう暑いと、島へでも行って泳いだり魚を追いかけたりしたいなあ、と切に思う。3年連続で友人達と沖縄県の八重山諸島へ遊びに行ったこともあるが、もう遠い日のこと。今は行きたくとも、ヒマはあるけどカネがない。
 せめて本の中で島を楽しむか。ずっと以前からの愛読書『SHIMADAS(シマダス)』(財団法人日本離島センター)を取り出してみる。1151ページもある大冊だが、通して読む必要はないわけで、自分の行きたい島や興味ある記述を求めてパラパラめくると、日本全国の有名無名の850島について情報が詳しく載っており、実に楽しい。あるいは、いつぞや触れたことのある故・江口司さんの『不知火海と琉球弧』(弦書房)。熊本県の不知火海の渚沿いの話や沖縄県の島々でのフィールドワークの様子が詩情あふれる文体で綴られ、いつ読んでも味わい深い。
 そんなことしていたら、『島の文学を歩く』(書肆侃侃房)という新刊本に出くわした。福岡県出身の作家・佐藤洋二郎氏による、文学紀行エッセイである。山口県の巌流島から始まって沖縄県の石垣島まで、27の島と文学作品が登場する。『SHIMADAS(シマダス)』をほったらかしにして一気に読んだ。池上永一の小説「風車祭」の舞台である石垣島で、佐藤洋二郎氏はこう思いを述べる。

 〈そういえばこの島は、沖縄からはじめて世界チャンピオンになった、具志堅用高の出身地だったなと思い出した。ボクシングほど自分を律して、命がけで闘うスポーツはないなと思い返したが、自分も彼らほど懸命に生きれば、いい小説が書けるのにとおもってしまった。彼の努力と、滑稽なまで生きようとする、「風車祭」の老婆の精神力は、この島の土壌で育まれたエネルギーのような気がしてきた。〉
 
 なんか、こう、骨太の思考がたいへん魅力的ではないか。島へ渡り、島の中を歩き、文学と土地と人間をじっくり考える著者。堪能できる1冊だなあ、と感じ入った。
2010年7月24日