弦書房週報 第36号

▶いまや世界的に有名になってしまった「福島第1原子力発電所」。この原発は操業当初(1970年代)から制御棒の脱落事故や放射能汚染の影響があるらしいことがわかっていたが、事故そのものが2007年まで隠蔽されていたという。その隠された危険性が3月11日の東北大震災ですべて明るみになった。この原発は北緯37度25分の緯度上にあり、この緯度線を西にたどっていくと新潟県の柏崎刈羽原子力発電所がある。さらにこの37度25分の緯度線上には石川県珠洲原発予定地(計画中止)、油田、ガス田、水力発電所、地熱発電所、風力発電所などがあり日本のエネルギー供給施設の集積地となっているーということを若松丈太郎さんの詩集『北緯37度25分の風とカナリア』(若松丈太郎、定価 2100円)は教えてくれる。2010年1月の刊行で、1年後の3月11日の福島第1原発事故を予言しているかのようだ。〈怪物としての原発〉を未来に残すのか廃止するのかは、まさに死活問題である。

▶3月30日、松本征夫さん(「征」の字はつくりに“正”を2つ重ねたもの)が逝去された。山をこよなく愛する岳人にして地質学者、探検家だった。ヒマラヤからヒンズークシの山岳地帯、南極、チベット青蔵高原、シルクロードの主要な街道などかなり険しい地帯へ迷うことなく足をふみ入れている。この人のすごいところは、行動のすべてを書物の形にまとめているところだ。あの「坊がつる讃歌」の作詞者のひとりでもあり、九重の自然を守る会の精神的支柱ともいえる人であった。『九重山の花暦』を作成途上だったが、遺稿集という形で近く刊行する予定である。『九重山 法華院物語《山と人》』(松本征夫、梅木秀徳[編]、定価 2100円)

▶ドキュメンタリー映画「無言館」が上映。無言館は長野県上田市の高台にあり、戦没画学生たちが描いた絶筆画を、野見山暁治氏と窪島誠一郎氏が遺族の家を訪ねて集め、展示した美術館。絵画の原点をじっくり味わうことができる。
5月3日、福岡市中央区のふくふくプラザ
8月14日、北九州市戸畑区のウエルとばた
(九州共同映画社 092-741-7112)
『絵かきが語る近代美術』(菊畑茂久馬、定価 2520円)、『眼の人 野見山暁治が語る』(北里晋、定価 2100円)

(表示定価は税込)