前山 光則
友人から、「フナデウキに行くが、加わらんか」と誘いがかかった。ああ、観光舟出浮きか。良いねえ、と大いに気が乗った。そして、6月7日(土曜)、曇り。八代港に参加者30数人が集まり、漁船5隻に分乗して出発したのが午前10時だった。5キロほど沖合に並んで浮かぶ三つの小さな無人島のうち、真ん中の中島を目指しつつ、各船がイカ籠やカニ籠・刺し網を使っての漁を行なう。
わたしが乗せてもらった船は、60歳ぐらいかと思われる漁師さんが舳に居て、ウインチを操作してイカ籠を引き揚げていく。傍にいる奥さんが籠の中のイカを次々に取り出して生け簀(す)へ放り込む。モンゴウイカとコウイカだ。イカたちは今が産卵期だそうで、籠の入り口に篠竹の束が結わえ付けられている。そこへイカが卵を産みつけにきて、籠の中へ入ってしまえば出られなくなる、という仕掛けなのである。奥さんはその夥しい数の卵を竹束から外す作業もテキパキとこなすので、友人が「奥さんは大変だな。旦那は何もせんで、楽だな」と冷やかしたら、2人とも苦笑していた。不知火海は天草上島・下島等に囲まれた内海である。だからかねてから穏やかな海だが、その日はまたちっとも風が吹かぬベタ凪で、作業もしやすかったようだ。
1時間半ほどで中島に着いた。浜には炊事場やトイレが設けられており、大勢で飲み食いができるようになっていた。わたしたちの乗った船が先頭だったので、先に陸に上がって後から来る船の様子を桟橋から見物したが、刺し網漁の船の生け簀にはチヌ・コチ・カワハギ・タコ・イシモチ・クツゾコ・ヒラメ・マダイ・クルマエビ等が入っていて、種類の多さにビックリした。みんなで手分けしてテントを張り、シートを敷いて、宴席を作る。漁師さんたちは料理に精を出す。さほど待つ間もなく刺身や天ぷらや南蛮漬け・煮付け等の大皿がいくつも、次から次に運ばれてくる。缶ビールで乾杯し、料理を口に入れる。思わず「うん、うまい!」とうなり声が出る。取れ立ての魚の、なんというおいしさ。刺身、天ぷら、煮物、どれも味がいきいきして食感がなんとも良い。最後にはタコの炊き込み飯が出てきたが、満腹で食べきれない。不知火海の豊かさをあらためて実感したのだった。
舟出浮きは、昔、殿様が漁民に鉾を使った素潜り漁をさせて、舟の上から見物し、獲物を肴に酒を酌んで遊んだのが始まりだそうだ。今の世では、殿様に代わってわれわれ下々の者たちが愉しむわけである。贅沢なようだが、でも会費は5千円。そう高くもない遊興ではなかろうか。午後2時頃に港に帰り着くと、漁師さんたちが獲物の残りを土産として持たせてくれた。大きなビニール袋いっぱいにチヌやイカ等を貰って帰り、女房に手伝わせながら捌いたが、冷蔵庫の冷凍室が満杯となってしまった。いやはや大変であった。