前山 光則
今回もわがふるさと人吉での話である。
4月5日(日曜)、写真家・麦島勝さんのお伴をして人吉市郊外のクラフトパーク石野公園へ出かけた。広い敷地内に陶芸館や鍛冶館・木工館などの施設があるが、この公園をメイン会場にして熊日フォトサークル「春の撮影会」が行われたのである。あいにく、雨が降ったり止んだりと悪天候。それでも百人を越す人たちが来ており、世の中には写真を趣味とする人が多いのだなあと感心した。かわいい若いモデルさんが3人も来ていたし、彼女らを乗せる人力車も用意してあった。地元人吉の臼太鼓踊りの一団も来ていて、彼らもこの撮影会の「モデル」である。午前10時から開会式が行われ、モデルさんらが各所に散って、参加者たちも撮影体制に入った。
麦島さんは指導者であるから、参加者たちへアドバイスをするのである。和服のモデルさんが焼酎館の脇にポーズつくって立っていると、麦島さんが「そこでは映えないよ。あそこの、茶室。庭があるでしょ、庭に立ってみてごらん」と指示なさる。彼女がそこへ行くと、不思議なくらいたちまち似合うのだった。広場中央の野外ステージで臼太鼓踊りが始まり、カメラを持った人たちはステージ先端にかぶりついて盛んに撮りはじめた。すると麦島さんが怒鳴った。「あと1メートル後ろに下がってください!」、麦島さんは真剣に腹を立てていた。「あんなに近寄ったら、演舞の邪魔になってしまう。絶対やっちゃいかん」というのである。普段はとても温和な方だが、こと写真の本質に関してはこんなにも厳格だ。さすがは『昭和の貌』(弦書房)の写真家だ、とあらためて尊敬し直した。
モデル嬢たちは、はじめ、表情や立ち姿が堅かった。だが、皆さんたちがカメラを向けて「もう少し横向いてごらん」「少し笑ってほしいな」「いい顔したねえ」などと声をかける。すると、彼女らの顔つきや立ち居振る舞いが次第に柔らかく、活き活きしてきた。見ていて不思議な感じだ。さてそれを撮る人たちのカメラだが、皆さん一様にガッシリ大きくて重たそうなカメラを抱いており、多分あれは望遠レンズ付きとか一眼レフだろう。もっとも、麦島さんにそれを言ったら「いやいや、普通のカメラで充分です」とのことだ。そうかなあ。やはり高価で立派なものでないと出来映えもよくなさそうだ、などと思った。 しかし、参加者の中に人吉市在住の知り合いS氏がいて、ごく普通のカメラだった。いや、それだけでなかった。昔の蛇腹式のもの、それから小さいカメラもバッグから取り出すので、目を見張った。昔懐かしいスタートカメラ。昭和30年代半ば、野球のグローブの一番安いのが500円で買えた頃に、やはり同じ値段でカメラ店の店先に置いてあった。親にせがんでも勝って貰えなかったスタートカメラ! なんだか、嬉しくなってしまう。 写真愛好家たちも色々なのだな、と思った。