市原猛志
【1910年竣工/福岡県大牟田市/煉瓦造二階建他】
今や世界遺産としての名で知られる三池炭鉱万田坑は、1997年に国の重要文化財に指定されるまでは、その価値を関係者以外に知られることがなく、ひっそりとたたずむ設備群であった。産業遺産が一般観光客を迎えるようになったのは、世界遺産がブームになった21世紀以降の話であり、ここ三池炭鉱においても価値を再認識される前に取り壊された四山坑(1924年竪坑櫓竣工)や戦後復興期に出来た有明鉱(同1967年)など、今ならばイベント会場としてまた地域のランドマークとしても活躍したかもしれない施設が、ここ20年ほどの間に壊されていった。そのような意味では万田坑は幸運な施設であると言えよう。
施設としての特徴は炭鉱坑道奥部の切羽から石炭や資材を引き上げるための竪坑設備以外の鉱員風呂や職場、変電所に輸送用引き込み線など、石炭が採掘され港まで運ばれるまでの一連の流れをシステムとして確認することが出来る施設で、その価値が現在世界遺産として評価されている。訪れる国内外からの観光客を見ると、時代の急激な変化を感じずにいられない。