前山 光則
我が家の庭の、山桜桃(ゆすらうめ)。今、直径1センチほどの小さな実が赤く熟れきっている。朝起きて眺めたら、「早く摘んで、早く」とせがんでいるかのようだ。そんならば後で一気に摘んでしまい、焼酎漬けにするか、と思案していたら雨が降り出した。ああこれは果実酒造りなんぞにうつつを抜かすな、早く「本のある生活」の原稿を書け、との天の思し召しなのだ。
今週は『文人俳句への招待』(石井龍生著、五曜書房刊)という本を読んで、面白かった。17人の文人について、彼らが本業のかたわらどう俳句と親しみ、実際にどんな句を詠んだのか紹介してあるのだ。
腸(はらわた)に春滴るや粥の味 夏目漱石
青蛙おのれもペンキぬりたてか 芥川龍之介
青梅のしり美しくそろひけり 室生犀星
夏目漱石や芥川龍之介、室生犀星等の俳句との関わりはすでに良く知っていた。けれども、悲しげな細身の女人の絵で知られた画家・竹久夢二や少女小説の吉屋信子もまた熱心に俳句に励んでいたとは、この本で初めて知ったのだった。
人妻となりける君におぼろ月 竹久夢二
病める子の鏡にうつる青葉かな
チルチルもミチルも帰れクリスマス
浮浪児のなめて離さず甘茶杓 吉屋信子
友来(きた)る、宝のごとく炭をつぐ
蚊帳釣りて厳しき世をばへだてたり
この2人の句には新鮮な感動を覚えた。竹久の「チルチルも…」は、メーテルリンクの「青い鳥」だ。幸せの青い鳥は遠いところでなく、家の中にいるよ。今日はクリスマス、早くお帰り、と、なんてすてきな呼びかけだ。吉屋の「蚊帳釣りて…」、これは蚊帳の中に寝る時、外界を遮断できたようなホッとした気分だったろう。分かる、実に同感。
一昨年は旅の途中で群馬県伊香保温泉の「竹久夢二伊香保記念館」に立ち寄ったのに、見学がおざなりだったなあ。吉屋信子なんてすっかり忘れられてるが、ちょっと見直したゾ。――しきりに反省したことであった。
2009年5月22日(土曜)