第61回 ヨッコラセイと長崎へ

前山 光則

 相変わらず暑い。でも、負けてたまるか。ヨッコラセイと気合いを入れて、7月30日、朝早くから友人3人と共に車で八代市を出発し、長崎市へ出かけた。高速道路を走って約3時間で到着、長崎では木版画家の小崎侃(こざき・かん)氏も同行してくださり、長崎県美術館で「菊畑茂久馬(きくはた・もくま)回顧展」を一緒に観たのである。
 長崎市には、以前、立山というところに長崎県美術博物館があったが、それが「長崎県美術館」として生まれ変わって平成17年に長崎市出島町の「長崎水辺の森公園」内にオープンしたのだという。行ってみると、実に立派な建物だ。運河をまたぐかたちで建っており、存在自体が巨大な美術品である。
 それで展示内容だが、オブジェも観られたが、テーマは「タブローの観点から」というふうに設定されている。「月光」「月宮」「海道」「海 暖流・寒流」等の力作画が、ズラリと並んでいる。
 すっかり圧倒された!
 絵が大作ばかりであるからではない。オブジェが奇抜であるからではない。それら全体から放たれるオーラが凄いのだ。土俗的でありながら、たいへんモダンで、しかも力強い。自らの裡に湧いて止まないイメージの全体を全的に解放しつつ、しかも放埒に堕さない。つまり、抑制することもまた力業(ちからわざ)でやってのけてある、と思う。一緒に来ていた友人の一人が「岡本太郎は、芸術は爆発だ、と言うたげなばってん、この人はマグマのかたまりバイ」、しきりに感心し、頷きながら呟いた。そして、最近作「春風」、これはまた明るい色彩である。今までの菊畑氏の力のこもった色の使い方から一転し、意表を衝いた発散がある。数々の展開をこなしてきたこの人、現在76歳である。いったいどこまで進化しつづけるのだろう。
 小崎侃氏が一緒に観てまわってくださったので、特にオブジェについてどのような素材をどう使ってあるかとか、九州派の美術運動のこととかさすがよく分かるらしく、いろいろ教えてもらえた。時間さえあれば、いつまでも繰り返し鑑賞したい回顧展であった。
 今、菊畑氏の著作『絵かきが語る近代日本《高橋由一からフジタまで》』(定価2520円、弦書房)をパラパラとめくっている。この人には他にも『天皇の美術』『戦後美術の原質』『反芸術綺譚』等の著作があり、絵やオブジェの実作だけでなく美術史家・評論家としての活動も精力的にこなしてきた。幅広いというより、全人的エネルギーだなあ、と感心する。
 菊畑茂久馬回顧展は、長崎のは8月31日まで。共同開催の福岡市美術館の方では「オブジェの観点から」とのテーマで8月28日まで催されているので、そちらへも行ってみたくてたまらないが、我ながら雑用がいっぱい詰まってきている。はて、どうなるかなあ。

▲長崎湾を望む。長崎県美術館へ行く前に、風頭(かざがしら)山の頂上から長崎湾を見下ろしてみた。良い風景である

▲長崎県美術館。埋め立て地の上に建てられているので、地震の時に液状化現象にはやられないのだろうか。余計な心配をしてしまった