前山 光則
連休は遠出できず、家に居て雑多な用事や書きものをして過ごした。代わりに、それより前の4月20日、東京からの客や親類の者4人と共に宮崎県椎葉村へ遊びに行った。
前日泊まった熊本県側の水上村から出発し、標高1070メートルの不土野(ふどの)峠を越えて椎葉村へ入って間もなく、休憩。道路脇に水飲み場があるので口に含んだら、冷たくて、甘い。全員、喜んだ。鬱蒼たる森林から湧き出る水は人を元気づけてくれる。それからまたしばらく進んで脇道に分け入り、豆腐屋へ立ち寄った。ここで作られる製品は福岡市の本社へ直送され、あちこちで評判である。「掬い豆腐」という、お椀を伏せたような形のものを試食させてくれたが、大豆の持つうま味が心地良い。都会の豆腐屋さんがこんな山奥で製造をするのは、やはり良い水と材料にこだわりたいからなのだろう。
昼飯は上椎葉の食堂に入った。店の女将さんが「蕎麦と御飯ならある」とおっしゃるので、注文した。そしたら鶏肉や牛蒡の入った蕎麦が出てきて、実にうまくて、心から嬉しくなる。つなぎ無しのいわゆる十割蕎麦は、焼畑で栽培されたのだそうである。焼畑ならば、実際に今もそれを行うお家を知っているが、あそこの婆ちゃんは今もお元気だろうかと懐かしくなった。そして、玉蜀黍(とうもろこし)を炊き込んだ御飯。ほかほかのそれを目にして、ついついはしやいでしまった。
家への土産には、菜豆腐(などうふ)を買おうと思った。掬い豆腐が上品で柔らかくて都会向けのものであるのに対して、椎葉村の人たちが昔から親しんできた豆腐は固い。その固い中に細切りした大根・人参・青菜などが埋まっていて菜豆腐と呼ばれており、これが素朴な歯触りと味わいなのだ。それで上椎葉のマーケットに行ってみたが、売り切れだというし、他の店にあたってみても、ない。何ということだ。観光客の多い土曜・日曜でなく月曜日なのに品切れするのならば、菜豆腐はそんなにも人気食品なのか、と、ため息が出た。それでも諦めきれずに探したら、集落からだいぶん外れた道の駅にはまだあった。ようやく土産が確保できて、ホッとした。
それから、椎葉村を後にして五ヶ瀬町を経由し、熊本県側へ入る。山都町の名所通潤橋(つうじゅんきょう)を川越しに眺めることの出来る道の駅で、休憩することにした。土産品店の人に「コーヒー飲めるところは、なかでしょうかね」、訊ねてみたら「ここで飲めます」とのこと。へえ、土産品店だからインスタントなのかな、と高を括っていたが、しばらくして店の人が持ってきたコーヒーは香りが濃い。口に含んでみると品のいい苦みとコクがあり、目が覚める思いだ。聞けば、県境近くにコーヒーの自家焙煎をする人がいて、そこから豆を仕入れているのだそうだ。
田舎で出会う、こうしたおいしいもの。「田舎力」と呼んでみたいが、大袈裟だろうか?