前山 光則
11月20日から23日まで、福岡市に滞在した。大相撲九州場所を観に行ったのだ。
21日には会場の国際センターまで散歩して、出入り口のところで力士たちが場所入りするのを見物した。いつも痛感することだが、大相撲は他のスポーツと大いに違う。大銀杏を結った大男が紋付袴に身を固めてユサユサと歩けば、それだけでもう歌舞伎座に来たような独特の雰囲気だ。折しも前日に北の湖理事長が逝去したため喪章をつけた報道陣が来ていて、一般ファンを掴まえて感想を言わせており、一抹のさびしさもあった。
そして、翌22日は千秋楽。妻と娘とわたし、それにこの連載コラム第3回・第21回等に登場する美人Y嬢も東京から駆けつけて、4人、枡席で観戦したのだった。欲張りのわたしは自分だけ先に会場へ出向き、午前9時40分には中へ入った。序の口の最初の取り組みから観てみたかったのである。一番乗りかと思ったら、どっこい、すでに館内には40名ほどの観客が入っていた。下の方の力士たちは、思いの外立ち会いが鋭かった。ただ、押しや投げ技の迫力が足りないので、大相撲ファンとしてその成長ぶりを見守っていきたくなる。朝から観戦する人たちはそういうところを愉しむのではなかろうか。
三段目中位あたりの取り組みが行われる頃には妻もY嬢も、そして娘も桟敷席に勢揃い。声を張り上げてひいき力士へ声援を送ったり、タイミングを見はからっては売店や通路へ出向いて相撲グッズを買ったり、力士たちを間近に見たりした。Y嬢はたいへんな相撲通で、佐渡ヶ嶽部屋所属の床山の床佐渡さんが今場所限りで退職することまで知っていた。実際、床佐渡さんに直接労いの言葉をかけるのだった。注目の幕内最高優勝は日馬富士が久しぶりに栄冠を手にしたが、しかしその日最も見応えがあったのは中入り前に行われた幕下西31枚目の芝と西54枚目の宇良による幕下優勝決定戦だった。7戦全勝同士だ。二人は同じ木瀬部屋、しかも大学時代から何度もやり合っているライバルである。宇良に対してはファンから「ウラー、イゾレ、イゾレ!」と何度も声援が飛ぶ。必殺技「居反り」を期待しているのだ。宇良は小柄な代わりに俊敏で、大柄な芝を相手に縦横に動いて投げを打つ、後ろへ回って足取りを試みる。押されそうになってもスルリと躱す。2分40秒つづいた攻防の末に芝が辛うじて宇良を寄り倒し、宇良はついに得意の居反りを出せぬまま敗れたわけだが、ちょっとの間も目を離せぬ大熱戦に会場は沸きに沸いた。
その日の最後、新序出世力士の披露があり、彼等によって行司が胴上げされて全日程が終了した。これは、行司を神さまに見立てて、開催期間中見守ってくださったことに感謝し、お送りする「神送り」なのだそうだ。古来からの神事を忘れぬ大相撲、やはり他のスポーツの追随を許さぬ格調高さがある!