「時は命なり」 1年に「508日」働き、睡眠は5時間40分。二宮尊徳を尊敬し、農業の本分を完うして、国に尽くす。明治・大正・昭和を生きた篤農家・安高団兵衛(1896−1967)。毎日を克明に記録しつづけた〈記録魔〉団兵衛の膨大で貴重な史料からみる、当時の「代表的」日本人の生き方。「自分に与えられた時間が自分の命である」との思想で生きた安高団兵衛は、日記はもちろん農作物収穫表など、ありとあらゆる事を書き留める〈記録魔〉でもあった。その数1万2000点。その団兵衛の記録が、時の政府を動かし、ある重大な危機から地域の住民を救うことになる――
【本書の主なトピック】農業経営、農業思想/大正期の徴兵制、兵役生活の貴重な記録/「時間」に対する独自の概念/人としての生き方、思想/国が認めた「世界一」の団兵衛の記録
第一章 〈記録魔〉団兵衛について
団兵衛との出会い/安高文書とは?
第二章 明治・大正期の団兵衛―――誕生から三〇歳まで
日記を始める/徴兵検査にのぞむ/入営する/兵営の日課/兵営の過ごし方/下士志願を勧められる/上等兵になる/伍長勤務上等兵になる/退営する/新たな記録を始める
第三章 昭和戦前期の団兵衛―――三〇歳から五〇歳まで
記録類の手引き書/十六種類の記録
一年に五〇八日働く?/睡眠は五時間四〇分/目指すは二宮尊徳/時計と競争する/「時は命なり」
家族の病と死/子供の教育/金銭観
農民の使命/国民の責務/天皇崇拝者として/敗戦を迎えて
第四章 昭和戦後期の団兵衛―――五〇歳から死去まで
1記録類の行方・記録類の戦後/戦前で終わった記録/戦前まで続いた記録/戦後から開始した記録/終戦直後の団兵衛
2記録が評価される・注目を集めた戦前の記録/政府認定を覆した明細表/防風林伐採被害の実態/団兵衛の記録は「世界一」
3記録が住民を救う・筵旗立て決起!/時代の記録/勝ち取った補償金
4団兵衛の遺したもの・あと二つの被害補償/「時間」を追いかけて
時里 奉明
1963年福岡県生まれ。九州大学大学院博士課程満期退学。現在、筑紫女学園大学教授。専門は日本近代史。戦前の八幡製鉄所(労働者、福利厚生)に関する論稿多数。地域史や近代化遺産も関心がある。主な著作は、北九州地域史研究会編『北九州の近代化遺産』(弦書房、2006年)、「官営八幡製鉄所創立期の住宅政策」(『経営史学』2011年)など。