file93 俳聖殿

市原猛志

【1942年/三重県伊賀市/木造二階建】
伊賀市は忍者の町をPRすべく、伊賀鉄道の電車も忍者をイメージした意匠で統一されたユニークな車両が導入され、観光地としてのブランド形成にいそしんでいる。その中心部にある伊賀上野城の一角に、そんな車両のインパクトを拭い去ってしまうような何とも形容しようがない檜皮葺き屋根のお堂がある。扁額には「俳聖殿」と書かれており、俳句で著名な松尾芭蕉の出身地であることを示す記念碑的な建物である。一階部分だけならまだ珍しい八角堂で話を終えることも可能なのだが、塔屋部のゆるくカーブを描いた屋根は、ただ者とは思えない。「変な建物を見たら伊東忠太を疑え」との例えどおり伊東忠太設計によるアレンジ和風建築の類と見て取れる。先ほど紹介した二階部分の屋根は芭蕉の笠をイメージしているとのこと。堂内に安置された伊賀焼の等身大芭蕉像も気になるところではあるが、それは次の機会に取っておくことにする。インパクトの方が強くなってしまうが、愛らしい、しかしどこかおかしな建物で、見る者をひきつけてやまない。
 
 
 

▲独特の風貌を持つ俳聖殿

 
 

▲塔屋に取り付けられた扁額