戦時中はもちろん戦後も含めて80年以上大切に保管されていた従軍手帳・手記・家族間の往復書簡から甦る、〈戦中派の生活観〉を淡々と記したドキュメント。
――日中戦争(日支事変)を北支(現中国北部)で、太平洋戦争を朝鮮南部(現韓国)で軍医として勤務するかたわら、戦地の日常も記録にとどめ銃後(日本本土)の家族へ手紙で伝えた若き軍医・小野寺精喜の半生。彼とその家族は、混乱した戦時中と敗戦直後をどのように生き抜いたのか。その判断力は現代を生きる私たちを鼓舞し励ます力がある。
Ⅰ 軍医として北支へ
第一章 軍隊入隊(昭和十二年八、九月)
召集令状が来る/留守の女たちの感想/精喜の家族/入営直後に受け取った手紙/秋日和の弘前から赤泥水の塘沽へ
第二章 北支の激戦(昭和十二年九月から十一月まで)
易県で野戦病院開設/石家荘から井陘へ/戦地で受け取った最初の手紙/内地の様子/患者八百人と美しい星空/操と直助の手紙
第三章 やや落ち着いて(昭和十二年十一月から十三年三月まで)
芸者の色付き写真は慰問品中のヒット/一か月間の隊付き軍医/母と弟の手紙/内地でも人は死ぬ/本隊復帰(陽泉・楡次・平遥)/昭和十三年春の世相/ともの縁談と和
子の映画/母と兄弟からの手紙
第四章 前線の長閑さと国内の統制(昭和十三年四月から十一月まで)
臨汾の長閑な日々と科学研究/大雨と洋画輸入禁止/慰問団の喜劇と無言の帰郷/石井部隊に入隊希望/塹壕病とムーランルージュ/コレラと賞/直助の満洲行きと和子の俳句/孝行豆腐/没法子(メイファーズ)
第五章 閑忙さまざま(昭和十三年暮から十四年暮まで)
精喜の賞詞と得郎の陸士合格/昭和十三年暮の医学部の様/『麦と兵隊』・戦死者の墓参・戦地慰問文/ノンビリした半年と多忙な半年/昭和十四年春夏の家族の状況/北京に移る/科学の話/精喜の結婚に対するシモさんと操の態度/結婚話を断る
Ⅱ 召集解除
第一章 科学・文学・映画その一(昭和十五年)
戦に行きても死なれず畳の上にてこの事あり/『物理学はいかに創られたか』/昌二君の身の振り方/操の身辺雑事と直助の支那行き/紀元二千六百年と窮屈になる生活/三紀子人形・『民族の祭典』・コーヒー
第二章 科学・文学・映画その二(昭和十六年春夏)
母の病気と親友の死/街は暗くなり肉もなくなる/『美の祭典』と『大自然科学史』/『万葉秀歌』/和子の旅行と清兵衛、得郎君の進路/日米戦争前の国内の状況
第三章 精喜と和子の結婚と除隊(昭和十六年秋から昭和十七年夏)
精喜と和子の結婚話/とんとん拍子に話は進む/精喜と和子が結婚する/御許様と六十通の礼状/軍務解除と別府温研勤務
第四章 精喜の母の死と昭和十七年の世相(昭和十七年夏から冬)
精喜の母の死/直助・操・精喜の感慨/昌二と得郎の感想/当時のお付き合いと日常生活/福岡の台風と前沢の法事/直助とキヨの満洲雑感/清兵衛の工場見学と得郎の渡満
/軍艦乗組員の戦争体験談/昭和十七年冬の世相
第五章 昌二の心境の変化と精喜の養子問題(昭和十七年冬から十八年春)
昌二の心境の変化/結婚後の戸籍の問題/一時的に一件落着/明るく軍務に励む得郎/昭和十八年前半の世間雑事/養子問題でギクシャクする/当事者より周りがうるさ
い/養子問題の決着
Ⅲ 朝鮮赴任から引揚げまで
第一章 福岡帰居と長男の誕生および昌二の遭難(昭和十八年夏から冬)
精喜夫婦の福岡転居/精喜の物理好き及び防空・防災/直助の満洲赴任と長男夏生の誕生/昌二の遭難/家庭内の不和
第二章 得郎の戦死と精喜の再応召(昭和十九年夏まで)
得郎の南方赴任と戦死/防火訓練と友人の召集免除願い/昌二と清兵衛が家を出る/精喜の再召集/朝鮮派遣/赴任直後の朝鮮で/留守宅の様子
第三章 人心の荒廃と母性愛(昭和十九年夏から冬)
昌二の再召集と清兵衛の忘恩/悪いことばかりではない/夏生の病気と和子の妊娠/昭和十九年夏の庶民生活/精喜の一時帰福と夏生の入院/得郎の叙勲と窮屈になる日常/
昭和二十年のお正月
第四章 戦況の逼迫と疎開(昭和二十年春)
徴兵検査で朝鮮を回る/シンフォニーを聞いたりハエを追ったり/龍太の誕生と疎開/疎開とその感想/冷静な直助と新京の様子
第五章 敗戦近し(昭和二十年春から夏)
暇だが不安な朝鮮軍/ドイツの降伏・対戦車戦法・ソ連の参戦/疎開の生活と恩人清兵衛/福岡大空襲/家が取り壊される/敗戦へ
Ⅳ 敗戦後
第一章 復員と住居探し(昭和二十年夏から二十一年冬まで)
敗戦/復員/耶馬渓から福岡それから古賀へ/直助の安否と民主主義/戦後の生活と大村病院行き/食べ物と民主化運動/古賀から別府へ
第二章 福岡の精喜と別府の家族(昭和二十二年から二十三年春まで)
昭和二十二年の別府の生活/食べ物と子供/東北大水害と天皇行幸/クリスマス・蓄音機など/拘置所の昌二と勝枝さんの死/石田君の死と新潟の学会
第三章 転居と癌(昭和二十三年夏から冬まで)
引っ越し直後の癌発覚/入院・手術・予後/精喜の死
小野寺 龍太
1945年福岡県生まれ。九州大学名誉教授。日本近代史、特に幕末期の幕臣の事蹟を研究。主な著書に『古賀謹一郎』『栗本鋤雲』(ミネルヴァ書房)他。著者は小野寺直助の孫。
日露戦争時代のある医学徒の日記 |