「夢野久作読本」書評から

◇『新文化』2003年10月2日付「地方・小通信」欄で紹介されました。

◇西日本新聞2003年11月1日付「近況往来」欄で、著者の多田さんのコメントが紹介されました。
久作は文壇からはみだした異端の作家。作品には日本の社会の虚妄を底辺から撃つようなおもしろさがあります…「ドグラ・マグラ」などで怪奇小説作家のイメージが強いでしょうが、そんな現代社会の矛盾を予感した久作の文明批評に強くひかれたことも執筆の動機です。(多田さん)

今回はこの謎の多い久作に的を絞り、作品をほぼ時系列的に追いつつ、その作家的成長史を追求してくれた。……私はこの『読本』の構成、作品を時系列で追うとともに、その文体や思想の変化の背後を見出していくという方法は、かなり納得が出来た。
多田氏が大きく評価しているのは、関東大震災後の東京の取材から生まれた「街頭から見た新東京の裏面」や「東京人の堕落時代」などに鋭く見えている夢野の時代感覚と文明批判の力である。それは、現代の日本、および世界が直面している一種の閉塞状況の批判にも相通ずるものとして読めるという多田氏の評価は、夢野久作の一面をよく見たものといえよう。(水澤周・ノンフィクション作家 図書新聞/2003年11月15日付)

本書は当時の世相、風俗に加え、久作が福岡で過ごした実生活のエピソードと作品を突き合わせてみることで、この作家の独自の世界の背景を浮き彫りにした評伝になっている。(日本経済新聞/2003年11月10日付)

本書では、異端の作家だった久作の生涯を数々の小説作品、ルポルタージュの解説等をまじえながらたどっていく。そこから現れる久作像は時にユーモラスで、時に社会に対して鋭い視点を持ち、小説に対しては常に真摯であり続けた、決して一面からだけでは捉えることが出来ない人物像である。(週刊読書人/2003年11月21日号)

幻想文学の先駆者として、また探偵小説の元祖として今日もなお、読者に根強く支持され続けている夢野久作。彼の独特な世界観に大きな影響を与えたものは、恐らくその出自であるかと思われる。……本書は夢野久作の生涯を追いかけつつ、彼の代表的作品について評論している。(著者の前著『夢野一族』に対して)本書はあくまでも夢野久作の生涯とその作品に焦点を絞った観点から著されている。
 従ってこの本は、たとえ近代史に関心が薄かろうが、またその逆に、文学に関心がなく、 たとえ夢野久作の作品を読んでいなかろうが、とりあえず夢野久作という作家と作品、そしてその時代を知ろうとする人であれば、誰でも興味深くかつ容易に理解することができる好著である。(田中健之・拓殖大学日本文化研究所附属近現代研究センター客員研究員/Yomiuri weekly・2003年11月30日号)

久作の世界に深入りしてしまった読者は、従来、とかく過剰に熱狂的なコトバで、この迷宮の謎ときに夢中になりがちであった。
 著者・多田茂治氏の筆致は、そういった狂熱ぶりとは程遠い。久作をめぐっての従来の論考や研究の成果を充分に取り入れ、消化したうえで、この作家への敬愛と親しみをこめ、その文学の魅力を静かに、ゆっくりと語っている。(西原和海・文芸評論家/西日本新聞 2003年11月23日付、東京新聞・北海道新聞 2003年11月16日付)

夢野久作は単なる怪奇作家ではなく、作品の底には夢野独自の哲学や国家観・社会観を深く沈めた作家であった。…本書では九州日報社の記者時代に書いた関東大震災ルポ『東京人の堕落時代』や、頭山満らを描く『近世怪人伝』などを読み解き、久作がいかにして社会の虚妄を底辺から撃つ面白さを身につけていったのかを探っていく。(出版ニュース・ 2003年12月上旬号)

◇雑誌「サライ」2003年12月18日号「読む」欄で紹介されました。

著者は、日記や書簡類などの丹念な研究を通じて“怪奇作家”にとどまらない久作の魅力を描き出す。
「作品の底に、独自の哲学や国家観、社会観を深く沈めていた」作家として、思想の形成史や表現が読み解かれていく。(熊本日日新聞 2003年12月21日付、長崎新聞・新潟新報2003年12月28日付)

◇雑誌「ダカーポ」2004年1月7・21日合併号読書欄で紹介されました。