第58回 散歩の土手に謎三つ

前山 光則

 このところ暑くてしかたがない。でも暑さにめげず読書はするので、2、3日前は熊本市へ出かけたついでに書店に寄って新刊本を数冊買ってきた。書店はクーラーが効いていて有り難かった!ただあれは本当の涼味ではないわけで、長く居ると体調がおかしくなる。やっぱり天然の涼しさの方が体にやさしい。
 一日のうちで1番よく天然の涼しさが味わえるのは、夜明け頃だと思う。毎朝うす暗いうちから散歩に出るが、近くの川の土手へ上がるとヒンヤリした実に気持ちいい空気が迎えてくれるのだ。なにものにも代え難い。
 そう言えば、散歩していて気になることがある。まず1つは、いつも土手のところどころに貝殻が転がっていること。ハマグリやアサリ、ウバ貝、それもわりと大きめで、殻の長さが6、7センチほどもあって、開いてしまっており、中身はない。貝柱が残っている時もある。次に、土手の隅っこにもう1年以上カヌーが置かれたままである。それも厚いビニール布でグルグルに包み、ロープでしっかり巻いてある。キチンとした置き方なので、いい加減に放置してあるとは思えない。

▲〈謎その一・貝殻〉これはウバ貝だと思われる。毎朝3、4個、必ず土手のあちらこちらに転がっているのだ。

 貝殻は、散歩で出会わす顔なじみの人に聞いてみたら、カラスかサギ類のしわざではなかろうか、人間が食い荒らすとは思えない、と言う。ああ、そうでしょうね、とわたしも肯(うなず)いたことであった。ただ、カヌーについては、カヌー好きな人がいずれまた近いうちここらの川や海で遊ぶつもりで置いて行ったが、なにかの事情が生じて来られなくなったのではなかろうか。もしかして重病かしら、死んだのじゃあるまいな、などと誰もが首を傾(かし)げるばかりである。

▲〈謎その二・カヌー〉きちんと梱包されて、なんだかミイラが置いてあるような感じだ。あしながおじさんのような人影は、私であります。

 もう1つ、カヌーの置いてある200メートルほど前方の左脇、草むらの中に、1ヶ月ほど前から古い自転車がポツンと立ったままである。ガタピシではあるものの、まだ充分に使えそうで、しかも前部には釣り竿を納めておく筒が取り付けられているではないか。これはもう、ここに自転車を置いた人がすぐ近くで釣りをしている、という感じである。ああそれなのに、いつまで経っても戻ってこない……、もしかして、と不吉な予感に襲われてすぐ下の干拓クリークを覗いたり、土手の右側が海だからそちらの方へ下りてみたりするが、怪しげなものはちっとも確かめることができない。だれかがここへ捨てたのか。それにしては、カヌー同様、さりげなく置いてあるふうだから、ならばやっぱり釣人はクリークに落ちたか、海で波に呑まれたか……。
 それら謎の物体に気をとられているうちにも、一日で1番涼しい刻(とき)はさっさと過ぎ去るわけで、東の空には朝日がズンズン昇り、カーッと照って、世の中文句なしに暑くなってくる。貝殻はともかくとしても、カヌーと自転車は、ほんとに何が原因してそこにあるのだろう。誰か教えてくれェ!

▲〈謎その三・自転車〉古びてはいるもののガタピシ状態とは言えない。タイヤの空気もちゃんと入っている。それがこのようにして草むらに立てられたままなのだ。