前山 光則
10月末、近所の人たちに誘われて玉名市の立願寺(りゅうがんじ)温泉への1泊旅行に参加した。総勢15名、そのうち男性8名、女性7名。初参加のわたしが1番若く、次に若いのが67歳のM氏、最年長は82歳のG氏で、まあ町内会の老人仲良しグループである。だが老人老人とナメてはいけないのだ。
あいにく、雨だった。朝9時過ぎに宿屋からマイクロバスが迎えに来てくれて、乗り込む。すると途端に缶ビールやワンカップ焼酎等が次から次に配られ、小宴会場と化した。
玉名市には約1時間半で着いた。蓮華院(れんげいん)誕生寺奥の院という大きな山寺を傘さしながら見学し、寺の薬膳料理で昼食をとったが、予定通りに行ったのはそこまでであった。あとの見学コースは雨のため取りやめになり、早めに宿屋へ入った。まだ1時過ぎであった。夜の宴会まで、だいぶん時間がある。温泉にゆっくり浸かったが、それでもたっぷりとヒマがある。すると、陽気なI氏が「夜の部の練習をしとこうじゃなかかい」と言いだし、宴会場のカラオケ装置を使わせてもらうようにかけあってくれた。居合わせた6人でたちまち「練習」が始まった。
皆さん上手だ。歌唱力だけでなく、表情の造り方や所作もうまくて堂々たるものだ。わたしなどは三橋美智也の「夕焼けとんび」を「夕焼け空がまっかっか、とんびがくるりと輪を描いた、ホーイーのホイ……」と唱ってみるが、今イチである。だが、M氏が歌に合わせて踊ってくれて、これはイケル。M氏とわたしは手と手をしっかり握り合い、「本番でもコンビを組みましょ!」と固く誓い合った。焼酎をちびちび舐めながら見物していたG氏から、「男同士で、は、は、せいぜい頑張れや」と冷やかされた。
5時半からの宴会は、はじめのうちこそおとなしく飲み食いするだけだったが、やがて賑やかにカラオケ大会となった。女性陣は歌だけでなく全員で踊りもなさる。わたしは初参加なので出しゃばらずに、しばらくしてもう構わないかなと予約を入れてみたら、なんと、順番が来るまで20分もかかった。でも、「夕焼けとんび」は相方(あいかた)のM氏の滑稽な踊りがヤンヤと受けて、ホッとした。
感心したのが74歳の町内会長H氏である。自分の歌いたい曲をビッシリとメモ帳に書き込んで準備してあるが、まったく知らない曲ばかり。「これはすべて新曲ですもん」とおっしゃる。新しい演歌を日々覚えている、とのことである。わたしなどはこの人より10歳も若いのに、いつも三橋美智也や石原裕次郎、新しくても吉幾三あたりしか唱わず、新曲を覚えようという意欲がない。町内会長の進取の気性には脱帽せざるを得なかった。
大いに呑んで、騒いで、新しい曲を唄って、これはもう老人会仲良しグループと見なすのは失礼だな、と思った。そしたら、「はい、わしたちは、一応、〈元気会〉と名前をつけとります」とのこと。名前通りなのだった。