第107回 トンネルの中で遊んだ

前山 光則

 わが熊本県方面はまだ梅雨明けしていないと聞くが、ホントだろうか。日が照ってやたら暑いし、蝉がワシワシワシワシ鳴いてうるさい。すでに夏まっ盛りという感じだ。節電に努めたいからクーラーに頼らず過ごしているものの、涼しい風が欲しいなあ。
 ただ、先日、阿蘇南郷谷の高森湧水トンネル公園へ遊びに行ったのだが、あそこでは実にじっくりと天然の冷気にひたることができた。わが家から車で約2時間弱、宮崎県と熊本県とを隔てる山塊の麓にトンネルの口が開いている。料金所で入場料300円を支払ったときには、すでに涼しいというより肌寒いくらいだった。中は常に気温17度だそうである。坑内の両側が通路となっており、真ん中を湧水が流れ出てくる。これが13度なのだという。天井から吊り下げられた大きな七夕飾りが迎えてくれた。「高森湧水トンネル七夕まつり」という催しが7月5日から8日まで行われ、祭りはすでに終わっていたわけだが、七夕飾り自体は8月31日まで展示されるそうだ。高森町を中心とする学校や会社・商店等、63団体が七夕飾りを出品しており、廃品をうまく利用したり、貼り絵、写真等を組み合わせたものとか、結構豪華である。アイディアやセンスの良さが溢れており、これは絶対に長く展示する価値があると思う。
 短冊に「毎日みんなが幸せでいられますように」「天地に感謝、高森の民」等、願いごとがいろいろ書かれている。「来年には結婚できますように」というのもあって、これは当てがあっての願いだろうか。それともまだ今から相手を探すのだろうか。「みんなで防ごう、土砂災害」などと書いている人は、勤め先が分かるような気もする。こうした短冊のいちいちを読むだけでも飽きなかった。
 一番奥のところで金柄杓で水を掬って飲んだら、柔らかい感触だ。聞けば、軟水とのことである。水にはほんとに硬さ・柔らかさの別があるのだなあ、と、妙に納得した。それと、暗いトンネルに入ってしばらくは正直こわごわした気持ちがあったが、奥で水を飲んでみる頃にはすっかりなじんでいた。暗い中での安堵感、こういうのって何なのだろう。
 高森と宮崎県の日之影とを鉄道で結ぶためトンネル工事が始まったのは、昭和48年である。全長6480メートル掘削(くっさく)の予定だったが、昭和50年2月、熊本県側から2055メートルまで掘り進んだところで毎分36トンの水が噴き出し、高森町内8ヶ所の泉源が枯れてしまった。工事が中断し、そのうち鉄道建設の計画自体が廃止。いくつかの曲折を経て、平成6年、入り口から550メートルが一般公開されることとなった。これが高森湧水トンネル公園なのである。
 ここではクリスマスのときにも催しが行われるのだという。泉源の枯れたところへもここから水が配られている。災いを福に転じてトンネルを有効に利用するのだから、たいしたものである。涼みたい人、ぜひ行くべし!

▲七夕飾り。造り上げるのにだいぶん手間ひまかかったのではなかろうか。上手な切り絵を灯りが照らして、風情がある

▲トトロと猫バス。猫バスの行き先には「高森東保育園」と書かれてあった。保育園の先生や保護者たちが、こどもらと一緒に造ったのだろうか。こういうバスに乗ってみたい!

▲トンネルの一番奥。入り口から550メートルのところ。山に降った雨がしみこんでここへ湧き出てくるまでには、どのくらいの年月がかかるのだろう。おいしい水である