file63 山寺ホテル

市原猛志
 
【明治後期/山形県山形市山寺/木造2階建】
 
山形県上山市でまちかどの近代建築写真展を開くこととなり、仙台空港から仙山線を経由して山形へと向かう。途中、そういえば山寺・立石寺に参拝したことがなかったと思い、道すがらの立石寺参拝を計画した。早朝の山寺駅を降りる人はまばらであったが、正面にでんと鎮座する建物がかつての山寺ホテルである。その名のごとく、立石寺を参拝する観光客向けのホテルとして建てられ、しかしながら、内装は完全な和風建築のたたずまいであり、機能としては「旅館」と称して差し支えない。日本家屋の旅館建築は、その時代ごとに規模拡張のために増築を繰り返し、この建物もまたその例を免れ得ない。建物の面積を増やす過程で異なる棟をつなげるときにどうしても段差が生じてしまい、そこがバリアフリーの観点から問題視されることも多い。しかしながら、建物をイベント施設とみなしたときにその複雑さは現代の建物にはない魅力のひとつとなるから不思議だ。イベント時などに公開されているのでぜひとも訪れていただきたい施設である。
 
 
 

▲駅と相対する位置関係の山寺ホテル

 
 

▲唐破風の車寄せ

 
 

▲増築の痕跡を物語る不思議な段差

 
 

▲ホテル内部の電話室