【戦前期か/佐賀県武雄市/木造二階建】
菓子店を紹介する、と言いながら、私は最初に訪れた時から今に至るまでここの菓子を食べたことがない。そもそも菓子店として営業していた時期を知らないので仕方ないといえる。武雄温泉楼門からまっすぐ南に下ったところにある水月堂菓子店は、私が学生の時に訪れたころからすでに閉店しており、その店名を上部に明記した正面意匠が事務所としての転用後も特に改装を加えられることなく、温泉街の景観に良く溶け込んでいる。
側面から拝見すると、典型的な二階建切妻造の日本家屋で正面よりも奥に長い直方体の形状をとっているのだが、通りに面した正面部分のみを洋風の意匠で彩る習慣は、地方都市の近代を語る上で欠くべからざるものと言えよう。解釈によっては看板建築というカテゴリで呼ばれることも多く、近代建築の鑑賞法として広く一般に愛されるモチーフとなっている。所有者の方も、このデザインセンスを惜しみ、そのまま用いているのではなかろうか。