戦後80年の年である。あの太平洋戦争の戦前・戦中・戦後に、ひとつの地方都市（本書では大分県佐伯市）が、どのような戦略のもとに〈軍都〉となっていったのか、そしてどのように戦後処理が行なわれたのかを各方面の(特に海軍関連)資料から描き出す。従来、地方都市が〈軍都〉と呼ばれ、海岸と海上防衛にそなえて「海軍航空隊」が設置された経緯とその実態はあまり語られてこなかった。本書は「軍国化」とはどういうことか、「戦争責任」をどう考えるべきか、を戦後80年の節目に改めて問い直す出色の一冊。
はじめに
海上防衛の要地／新たな軍事史研究の視点／軍都と軍港都市
第一編 軍都佐伯への兆し
第一章 日清・日露戦争と豊予要塞の建設
長崎事件の衝撃／大入島（佐伯市）での軍事演習／水雷艇石炭庫の設置／豊予要塞の建設／鶴見崎（丹賀）砲台の建設
第二章 海軍の軍事演習
海軍演習令／佐伯湾周辺での軍事演習／佐伯港の「軍港化」構想／連合艦隊の壮観さ／演習中の事件・事故／軍事演習の弾丸の費用は？ ／漁業の制限／半舷上陸／海軍は別府で休養／郵便局の新設
第三章 海軍のデモンストレーション
海軍軍楽隊の演奏／短艇競漕（カッターレース）／軍艦への便乗
第四章 海軍思想普及講演会
学校での海軍思想講演会／講演会の内容／「講演の概況」／講演会の「所見」／「民衆の軍隊
第二編 軍都佐伯の形成
第一章 海軍航空隊の誘致運動
海軍航空のはじまり／海軍航空隊の設置／佐伯町と富高町の実地調査／富高町の誘致運動／海軍航空隊設置促進期成会の発足／佐伯町がかかえる問題／「富高には空母が這入らず」／航空隊誘致運動は出来レース？／誘致運動の過程で見えてきたこと／土地買収と漁業権の問題／大村飛行場の用地買収問題
第二章 満州事変と佐伯
満州事変の勃発／国防思想普及講演会の開催／慰問金・慰問文・慰問袋／「満蒙問題と国民の覚悟」／上海派遣軍の凱旋／「帝国は即時連盟を脱退すべし」／慰問袋が減った／「我が常岡部隊の戦死傷者三十名」／「銃後の熱意」／新聞の威力／忠魂碑の建設
第三章 佐伯町のインフラ整備
佐伯町の人口増加／住宅の不足／幹線道路の建設／上水道の整備／常設活動写真館／佐伯東小学校の新設／佐伯港の整備
第四章 佐伯海軍航空隊の施設建設
海軍航空隊佐伯建設事務所の設置／水上飛行場（長島北側）の埋立工事／陸上飛行場（女島側）の埋立工事／海軍橋の建設／セメントの指名競争入札／雇用される職工と人夫／佐伯海軍航空隊の庁舎と兵舎の竣工／竣工式と祝賀会／竣工祝賀会に対するノルマ
第五章 佐伯海軍航空隊の発足
「新入隊者参考書」が示すもの／佐伯海軍航空隊の組織と所属航空機／日課表／海軍機の航空事故／航空事故の原因／航空機墜落の脅威 ／豊予要塞と佐伯海軍航空隊
第六章 国民統合の加速
連隊区司令部と在郷軍人会／「一九三五、六年の危機」／「大分県民がなすべき事項」／大分県国防協会／海軍協会大分県支部／佐伯国防談話会と軍都護郷団／国防婦人会／防空演習
第七章 航空隊御用達と佐伯地方の花柳界
「軍艦は食べる」／佐伯海軍航空隊の御用商人／御用商人は薄利多売／貸座敷・娼妓・芸妓
／佐伯芸妓の線香代／芸妓・酌婦・女給における「有毒者」／佐伯海軍航空隊と花柳街／芸妓・酌婦と性病／佐伯海軍航空隊の性病対策
第八章 佐伯町の変容
近代の佐伯町／佐伯町の中心市街地／人口の変化／軍隊が及ぼした経済効果
第三編 日中戦争と佐伯
第一章 挙県一致
北支事変解決の市町村民大会／挙県一致への動き／新佐伯町の成立／軍刀手に「イエス」か「ノー」か
第二章 戦争と教育
教練のはじまり／日露戦争と小学校／運動会と競技会／陸軍現役将校の学校配属／制服の色が国防色へ
第三章 重慶爆撃
錦州と上海への無差別爆撃／南京爆撃／重慶爆撃／陸海軍航空兵力による無差別爆撃
第四編 太平洋戦争下の豊後水道
太平洋戦争の開戦決定／真珠湾攻撃／佐伯海軍航空隊の作戦行動／佐伯防備隊の発足／機雷の配備／米潜水艦の出没／米潜水艦を攻撃／航行と漁業の制限／丹賀砲台の爆発事故
第五編 終戦と佐伯
第一章 戦後復興のなかで
占領／機雷の掃海作業／安全宣言／興国人絹パルプの誘致／佐伯湾の汚濁と土地の転売
第二章 海上自衛隊佐伯基地分遣隊の開隊
「海軍基地に逆戻り」／賛否両論／「復活するか『軍都佐伯』」／戦争遺跡
資料編 水銀鉱山
どうやって水銀を取り出したのか？／近代までの佐伯地方の水銀鉱山／大富鉱業（株）による開発／大分水銀鉱山の稼行／大分水銀鉱山の職員と鉱夫／大富鉱業（株）の経営状況／帝国鉱業開発（株）の設立／大分水銀鉱山の譲渡／帝国鉱業開発（株）佐伯鉱業所の職員・鉱夫・社宅／戦時下の佐伯水銀鉱山／鉱業権の譲渡
戦争責任について思うこと―あとがきにかえて
主要史料・本書全体にかかわる参考文献・主要参考文献
軸丸 浩
1960（昭和35）年、大分県津久見市生まれ、間もなく佐伯市に転居し、小学校時代を過ごす。1983（昭和58）年、熊本大学教育学部卒業。元大分東明高等学校教諭。現在 歴史研究家。
〈主要書籍〉『地域史研究と歴史教育』（熊本出版文化会館、1998）（共著）『佐伯市誌 上・中巻』（2024）（共著）
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