第19回 テレビの前に坐る時

前山 光則

 暑い暑いと嘆きながら毎日を過ごしていたが、朝方散歩するとすでに田んぼに案山子が立ち、稲穂もだいぶん色づいてきている。ほのかに米の香りがするのだ。なんだか風の吹き具合も違ってきているなあ、と思ったら、稲穂が「うん、うん」とうなずく具合に揺れる。そして日が暮れると、涼しい。家で晩酌しながらテレビを観る時、クーラーを使わなくて済むようになった。

▲広い稲田にマネキン利用の案山子が立つ。
マネキン人形はなかなか美人である

 ところで、テレビだが、勤めをしている頃はあまり観なかったのに、辞めてからは俄然楽しむようになった。なんといっても、今、ヒマ人なのだ。
 朝はNHKの連続ドラマ「ゲゲゲの女房」を欠かさず観ている。民放では、以前は「田舎に泊まろう」がたまらなく面白かったが、ちょっとマンネリ気味になったかなと感じるようになったのである。そうしたら、果たして「田舎に泊まろう」はなくなった。
 でも朝も昼もテレビの前にはさほどいないのだ。やはり、夕食時から就寝までの間、晩酌なんぞしながら、あるいは素面の時は寝そべって観るわけだ。今は、「鶴瓶の家族に乾杯」「秘密のケンミンショー」「なんでも鑑定団」、この三つが気に入っている。
 「なんでも鑑定団」はガラクタのような物が実はすごく高い値のつく1級品と分かったり、良さそうな品物が全く価値のないニセモノだったりして愉快だ。観ていて自分で価値を鑑定してみる。それが時折りまぐれ当たりすることもあり、面白くって止められない。
 すでにおしまいになった番組「田舎に泊まろう」や現在いつも観ている「鶴瓶の家族に乾杯」「秘密のケンミンショー」が自分にとって興味深いのは、なぜだろうか、と考える。「田舎に泊まろう」と「鶴瓶の家族に乾杯」は、ある日突然一般人の目の前に有名人が現れる、その意外性。特に笑福亭鶴瓶の現れ方、一般人との接し方は抱腹絶倒、見事だと思う。しかも、そこは旅先なのだ。「秘密のケンミンショー」にしても、各地の特有の食習慣や方言やらが話題に取り上げてあるのだが、観ていて「行ってみたい!」との思いがつのる。ははあ、「なんでも鑑定団」はちょっと別だが、俺っていったいに旅している気分になれる番組が好みなのか、とようやく自分の単純な傾向に気づいた次第。
 昨夜は「秘密のケンミンショー」で滋賀県長浜市のそうめんの食べ方が話題になっていた。長浜市では、焼き鯖を甘辛く煮て、その煮汁にそうめんを入れて一煮立ちさせる。それを、焼き鯖と共に食べるのだという。「先祖代々、大好物です」とインタビューに答える人がいた。焼酎をちびちび呑みながら観ていて、これは肴としても使えるのではないか、と思ったのであった。しかも、せっかくならば現地で食べてみたい。
 やっぱり旅をしたいのだ。
2010年9月3日

▲昨夜呑んだ焼酎。宮崎県国富町産のイモ焼酎。
いろんなイモ焼酎の中で、これは群を抜いてうまいのだ!