前山 光則
11月21日(金曜)、福岡市の国際センターで大相撲九州場所十三日目を観戦した。
熊本に住むK女史とうちの女房、娘、そしてわたし、全部で4人。全員、たいへん相撲好きである。午後1時半頃にはいそいそと会場に入り、枡席に座った。まだ観客もまばらで、幕下の真ん中あたりの取り組みだった。もっとも、下位力士の相撲もこのへんだと結構立ち会いが鋭いし、攻防にも迫力がある。十両になると、またさらに見応えが出てきた。
本場所観戦は、もうこれで何回目になるだろう。いつも感じることだが、会場入口前にずらりと立ち並ぶ幟旗、一つひとつに力士の名が刷り込まれていて、これだけでも相撲気分がグンと高まり、わざわざやって来て良かったわいと心が弾む。そして中へ入ると相撲グッズを売る店があって、こちらの気を引くものばかりである。取り組みを前にして緊張気味の力士や取り組みを終えた力士、付き添いの取的たちが人混みの中を通ると、そこには一種独特のムードが漂うから不思議だ。ガッシリした体躯の大男、関取は大銀杏を結って紋付き袴を着ている。取的連中は丁髷を結って浴衣姿。現代から江戸へタイムスリップし、歌舞伎興業の場へでも入り込んだような華やかさ。他の近代スポーツでは決して味わえない、大相撲特有の「華」であろう。だから、4人とも枡席で目の前の迫力ある勝負に見入ったかと思うと、すぐに代わる代わる座を立って相撲グッズ売り場に行ったり、通路伝いに力士たちの現れそうな場所をウロウロするのだった。でも、ま、良いのだ。東京や大阪、名古屋での本場所に比べて、福岡は力士とファンが近しく接することができるので良い、と言われている。会場の設営のしかたが少し違っているのだろう。ありがたいことである。ただ単に勝負を観るだけならば、家でテレビの前に居れば事足りるのだから。
それはともかく、K女史が嬉しそうな顔で枡席へ戻ってきて、「下の方の力士で、ヒカルゲンジって四股名の人がいたわよ」と報告した。エッ、光源氏? それはまた変わった名だなあ。右肩上(みぎかたあがり)だとか森麗(もりうらら)といった変わった四股名は確かにあるから相撲ファンとしてはあまり驚かないが、平安文学へ思いを誘うようなのは今まで聞いたことがない。「あたし、しっかり激励したんだから!」、K女史はご満悦だ。と、その時近くの席から「ガマダセ、佐田の海!」、割れんばかりの大声が飛んだ。「ガマダセよ!」、その人は繰り返す。土俵には熊本出身の佐田の海がいた。おお、これこそ九州場所。頑張れよ、でなくて、つい熊本弁が口を衝いて出るのだなあ。だからわたしも「ガマダセよ!」と声を張り上げた。
ヒカルゲンジだが、「ジ」のところは「氏」でなく「治」と書くそうである。どこの出身なのか分からないが、ガマダセよ、光源治!