file95 丹生鉱山

市原猛志

【1940年~(近代鉱山として)/三重県多気郡多気町/水銀鉱山】

2017年の産業考古学会全国大会見学会は、降雨のため行程の半分が中止となった。その代替として、2018(平成30)年3月に中部産業遺産研究会の主催するバスツアーにて、日本でも数えるほどしかない水銀鉱山である丹生鉱山を見学した。すでに閉塞された鉱山であることから、入り口部分のみの見学であるが、周囲の資料館には水銀採掘当時の痕跡がそこかしこに現存している。水銀と言えば、もはや体温計や温度計で使われていたという印象しか持たれないかもしれないが、かつては金属精錬の溶媒材として広く用いられていた。金属でありながら沸点が300度程度と低い特性は古代から重宝され、奈良の大仏に金をめっきする作業には、約2トンの水銀が用いられた。現在水銀の揮発性が抱える鉱毒が問題視され、2017年には水銀汚染防止に向けた国際条約 「水俣条約」が発効、2021年より水銀を使用する製品には規制がかけられる予定だ。その採掘の歴史はまさに「再現できないこと」として、後世に伝えねばならない。
 
 
 

▲丹生鉱山の保存坑道(入り口のみ見学可能)

 
 

▲300℃で気化する水銀の特徴を活かした製錬装置