前山 光則
東北・関東の地震と津波のもの凄さには圧倒された。未曾有(みぞう)の事態である。
3月11日、午後3時半頃に行きつけの喫茶店で地震のことを知った。それで帰宅後テレビをつけたら、東北の港町を津波が呑み込む様やコンビナートが炎上する等の映像が映し出されて驚いた。背筋が寒くなった。それ以来なにかにつけてテレビの前に坐り、福島原発の危機的状況や被災地の様子を報じる画面にハラハラしたり胸を痛めたりしている。
実は3月5日には家族で茨城県の那珂湊へ遊びに行ったのである。堤防に立つと目の前に広大な海と空があり、水平線がほんの少しカーブしているのが見てとれる。やはり地球は丸いのだな、と実感した。漁港のおさかな市場には海産物の店がずらり並び、新鮮な魚介類がわんさか売られていて「ヨッ、いらっしゃい」「負けとくよ!」と威勢のいい声が飛び交っていた。その那珂湊方面も津波にやられたようなのだ。東北の三陸海岸に比べたら被害は少なかったそうだし、わたしたちを案内してくれたTさん御夫妻もその実家の方達も無事だとのこと。しかし、あの海岸線で威勢よく働いていた人たちはどうなったことか。仮りに命に別状はないとしても、これからの復旧に伴う困難は計り知れない。
弦書房から詩集『越境する霧』『北緯37度25分の風とカナリア』を出版している福島県南相馬市原町区在住の若松丈太郎氏は安否が確認できず、心配していた。しかし、今日、ご本人から弦書房に連絡が入り、元気であるとのこと。いやあ、本当によかった。
昨日の昼、近所のマーケットの前で「えらいなことよなあ」「どうも、この頃、世の中おかしくなってきたばい」と中年の男たちが語り合っていた。その時は聞き流しただけだったが、帰宅してからジワリと違和感が湧いた。「この頃世の中おかしくなってきた」とは、政治情勢も不安定だし妙な犯罪も起こる、景気も悪い。この大地震もそのような思わしくない現象の1つに数えられる、世の中おかしくなるばかりだ、と言いたいのだろうか。
それから、新聞記事によると東京都知事・石原慎太郎氏は「日本人のアイデンティティは我欲になった」「津波をうまく利用してだね、我欲を1回洗い落とす必要があるね」「これはやっぱり天罰だと思う」と発言した由である。「被災地の方々はかわいそうですよ」との一言を添えた上でのコメントだったらしいが、それでも首を傾げざるを得なかった。案の定、その後メールや電話で批判が殺到し、発言を撤回して謝罪したそうである。
天変地異(てんぺんちい)は世の中がおかしかろうがおかしくなかろうが、また人間が我欲にかたまろうがかたまるまいが関係なく起こる。しかも今度のように遠慮会釈なしに襲いかかってくるから、喩(たと)えようなく怖い。そうではないのかな?