前山 光則
この頃、朝夕めっきり冷え込むようになった。昼間も風が吹くとひんやりする。近所の中学校の校庭では銀杏が黄色く色づきつつあり、もうすでに10月下旬。早いもんだなあ。
時の経過がとても早く感じられるのは、9月がとても慌ただしかったからだ。第15回「九月は日奈久で山頭火」、名のとおり9月中に種々のイベントを催すのだが、今もうすっかり「日奈久の行事」として根づいており、盛況で忙しい。次々とスケジュールをこなすうちにアッという間に日が経ってしまった。メインイベントであるシンポジウムは9月20日(土曜)、日奈久ゆめ倉庫を会場にして行ない、作家で竹細工師の稲垣尚友氏が「後ろ指さされる勇気にあやかりたい」と題して講演。講演後は、稲垣氏のほか写真家・荒川健一氏と地元の竹細工師・桑原哲次郎氏に加わってもらって「男って奴は幾つになっても……」とのテーマで座談会。地べたに寝転がって世界を見渡すと色んなものが見える、という稲垣氏は、気取らず、肩肘張らず、山頭火への想いや人生観を語って下さった。
それと、特記すべきは前々日つまり9月18日(木曜)のことである。夕方近くになって、日奈久の仲間から「稲垣さんが日奈久に来なったよ。今、温泉に浸かっとんなるバイ」との連絡が入って耳を疑った。シンポジウムの前日には日奈久へ来て、ゆっくり過ごしてから20日の講演に臨んでください、とはお伝えしておいた。しかし前々日からお出でくださったとは、これは何か勘違いなさったのではなかろうか。慌てて日奈久温泉へ駆けつけてみると、稲垣氏はすでに湯浴みも終えて、埋め立て地の中の野外トイレと水飲み場が設置されて小公園になっている場所に陣取り、火を焚いて野外炊飯中であった。稲垣氏のほかに荒川健一氏、さらに大学生だという橋詰大作君も一緒である。聞けば、千葉県鴨川市の御自宅を一週間ほど前に愛車を運転して旅立った。山口県の周防大島で講演や竹細工の仕事をしたが、時間の余裕ができた。それで「日奈久の街の雰囲気を味わいたくて、早めにやって来ました」とのことだ。なんという愉快な話だろう。すぐさまイベントのスタッフも交えての酒盛りとなり、稲垣氏たちはそのまま愛車内に宿泊。19日と20日は、ちゃんと日奈久の旅館に泊まってもらった。
稲垣氏の愛車だが、この連載コラム第113回「房総半島へ」では「ワンボックスカー」と紹介しておいたけれど訂正しなくてはならない。実はトラックである。トラックの荷台にコンテナが積まれており、その中が氏の「書斎」兼「寝室」兼「仕事場」となっている。かなりなポンコツ車でありながら、けなげに氏の独特の生活スタイルを支えてくれているのである。シンポジウムの際には会場のすぐ外の駐車場に愛車を置いてもらい、参加者たちの観覧に供したこと、言うまでもない。