第248回 雪が降った日

前山 光則

 先月24日(日曜)の雪には驚かされた。
 午前5時半頃に起きて外の様子を窺った時には何ともなかったのである。ところが、7時近くに窓から外を見たらジャンジャン降っているし、すでに積もりつつある。わが家から雪を眺めるのは何年ぶりだったろう。試しに近所を歩いてみたが、転倒しそうで、アブナイ、危ない。道路脇の郵便ポストが綿帽子を被っている。近づいて来る乗用車がえらくノロノロだった。灰色の空を見上げると綿くずのような雪が次から次に舞い落ちてくるので、これはもしかしたら「大雪」になるのかな、と、子どもみたいに胸が高鳴った。夜にはつきあいのある地元FMラジオ局の新年会が予定されていたが、早やばやと延期の知らせが入った。家の者も、翌日から大分市へ出かけることになっていたのを控えることにした。雪は以後も止まず、朝食後に家の者が庭の積雪を計ってみたら3センチで、あたり一面すっかり雪国風になっていた。そうだ、福島県会津若松市在住の俳人・二瓶洋子さんの句集『星仰ぐ』を読み返そう、と思いついた。

  命綱要らぬか夫(つま)の雪下ろし
  十二月八日彼の日の雪しんしん
  眩しくも太陽雪を解かさざる
  雪山に噴きて湯滝となりにけり
  真夜目覚む雪の明かりに月明かり
 
 6年前に刊行された本である。北国ならではの澄んだ空気が満ちていて、好きな句集だ。たくさんの収録句の中から雪に関する作を選び出してみたが、第一句、夫の雪下ろしを見ていて「命綱要らぬか」と問いかける光景、これに比べれば3センチの積雪なんぞは屁のようなものだろうなあ。しかし、雪山の中に湯が噴き出て滝をなしたり、深夜に雪明かり月明かりが見られたら、風情あることだろう、などとしきりに北国への憧憬が湧く。そんなにして句集を味わっている間も雪は降りつづいた。午後2時頃に近所を巡ってみたが、8センチ積もっていた。地面がコチコチに凍り、朝方よりずっと歩きづらい。あちこちで雪だるまが造られ、大きいのもあれば小さくかわいらしいのも出来ている。「かまくら」をこしらえるんだ、と張り切る少年もいた。4時頃からはテレビで大相撲を観たのだが、琴奨菊が初優勝を決めた感動的な場面の後、庭へ出て雪の具合を見たところ、9センチだった。夜も更けてから二階の窓を明けたら、冷気が流れ込んだ。外には「真夜目覚む雪の明かりに月明かり」を想起するような景色があった。
 町なかの雪が消えてしまうまで3日かかった。水道管が破裂した家庭もあった。山間部では泉町の五家荘が、やはり3日間、孤立したそうである。八代に住むようになって37年経つが、これだけ雪が降ったり地面が凍ったりする事態は実に初めての経験である。
 
 
 
写真①いつの間にか雪が

▲いつの間にか雪が。午前6時56分撮影。まだ暗い中、雪がしんしんと降っていた。ちょっとの間にあたりが白く染まっていたわけで、驚いた

写真②鵯も寒そう

▲鵯(ひよどり)も寒そう。わが家の庭にこの頃は鳥が遊びに来る。それで、ユスラウメの枝に蜜柑を刺しておいてやったのだが、雪を被っていた。鵯はそれをちゃんと払いのけて啄む。しかし、さすがに寒そうだった

写真③堤防からの雪景色

▲堤防からの雪景色。球磨川の分流である前川。いつもなら先の橋のはるか向こうの方に雲仙岳が遠望できるのだが、雪に煙っていて見えなかった

写真④雪だるま

▲雪だるま。あっちこっちで見かけたが、これが一番かわいかった。家族総出で造ったのではなかろうか