連載コラム: 『本のある生活』 2011.05.30

第52回 「日南讃歌」を観に行く

前山 光則

 5月24日(水曜)、行きつけの喫茶店主A氏に誘われて、雨の中を宮崎県日南市へ出かけた。A氏が10人乗りの大きな車を借りてきて運転までしてくれて、総勢7名、井山忠行(いやま・ただゆき)作の壁画「日南讃歌」を観に行ったのである。
 八代市を朝8時に出発したが、万緑の車窓風景を愉しみつつ県立日南病院に着いたのはお昼の12時近くであった。病院の入り口に作者ご本人と奥様が待っていて下さった。病院ロビーへ入ると、いきなり受付窓口の上に壁画が現れる。「おお…」、つい声を上げてしまった。長さ28メートル60センチ、高さ2メートルである。右の方から日南の海つまり太平洋、真ん中あたりが太陽とその輝き、そして左の方には鰐塚(わにつか)山地の深々とした森林。それらが、南国の風光から絞り出されたかのような情熱的な色づかいと躍動的な描線とによって抽象化され、いきいきと展開している。まさしく日南への讃歌だ。
 ロビーの左隅に説明板があって、「この巨大壁画は、画家井山忠行氏が県立日南病院の患者さんを励まそうと病をおして制作にとりくまれた作品で、2年半の期間を要し多くの市民、企業の支援により設置されました」とある。井山氏は、今年で確か75歳である。インドネシアのバリ島に住んで制作を続けているが、もともとは宮崎の出身だ。6年ほど前に癌を病んでこの日南病院に入院。それが縁となってここに壁画を描こうと思い立ち、それをまた周囲の人たちが大勢で制作資金を集めて支えたというのだから、市民パワーの凄さに頭が下がる。病いを抱えた人間には、心豊かになれるものが必要なのだ。わたしも大病を経験してきたから実によく分かる。ここには「日南讃歌」ができあがったから、なによりなことである。病院に来る人は、この壁画から必ず元気を貰うことができよう。
 井山氏の案内で油津の街へ出て鰹料理を味わった後、日南海岸の鵜戸(うど)神宮へ行った。ここでも氏の大作が観られるのだ。ここの絵とほぼ同じモチーフで日南病院の壁画も描いた、と井山氏はおっしゃる。神様に捧げた絵と同じ思いのこもったものが病院にも飾られているのだ。なんだかとても改まった気持ちになった。雨風がひどくて、波の音がドドドドと響いていたが、井山氏の絵はそんなものに負けぬ迫力を持っていた。社務所で茶を御馳走になってから、今度は同じ日南市の大堂津(おおどうづ)へ向かい、おいしいイモ焼酎を造る古沢醸造場に立ち寄った。あ、いや、焼酎が目当てでなく、むろん焼酎も買ったが、ここも井山氏の絵が飾ってあるのだ。
 その間、ずっと井山氏夫妻が同行して下さった。6月初めまで日南に御滞在とのこと、慌ただしい中どうもお世話になりました。それから、鵜戸神宮では絵に気を取られて、お詣りするのを忘れてしまった。神様、ご免なさい!

▲壁画「日南讃歌」。写真では両端がどうしても切れてしまい、写っているのは全体の4分の3ぐらいかな?

▲鵜戸神宮の壁画。巫女さんがとても明るい人柄で、絵の雰囲気に合っていた
こんなのもアリマス

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