介護のドラマツルギー
老いとぼけの世界

200頁
978-4-86329-315-1
定価 1800円 (+税)
2025年9月30日発行
紹介

介護の現場で日々の営みから「人間」を考え続ける村瀨孝生氏と、九州大学で福祉社会学やボランティア・NPO論を研究してきた安立清史氏の二人が、本当に必要とされている介護について語る。老いてゆく人とそれを見守る人が織りなす言葉と言葉、体と体、体と言葉。老いの前では、言葉は無力になるという現実を前に、その掛け合いをひとつの劇場的なもの(ドラマツルギー)としてとらえ、「宅老所よりあい」のエピソードを新たな視点から考える。◆この本のどこかに介護の〈いま、ここ〉で必要なヒントが必ず見つかります。

目次

はじめに――村瀨孝生と「宅老所よりあい」の世界
  
   
心を手放す …………………………………………………………………村瀨孝生
  心を洗面所に置く
  トイレでの苛立ち
  息が合わない
  言葉を所有する
  手段化される言葉
  体に委ねる
  目的を達成しない言葉

介護にとって「ことば」とは何か ………………………………………安立清史
  一人に向けて
  命名をめぐるドラマ
  嘘ですが、マジでした
  名前はまだない/名前はもうない
  ストレイ・シープ(迷える羊)

   
もうひとつのこの世 ………………………………………………………村瀨孝生
  底辺
  新聞を支える人たち
  支配
  介護と社会
  衰退の拒絶
  機械文明の限界
  実感に存在する私
  拠って立つ大地

こころが離れていくときのドラマ………………………………………安立清史
  隠喩としての病
  Nさんのロシア行き
  「科学的介護」と「野生の介護」
  「よりあい」の逡巡と原点回帰
  「ディメンシア」と「認知症」の間で
  私の手放し

   
成仏と供養 ………………………………………………………………… 村瀨孝生
  立派な言葉
  生まれてはいけない言葉
  崩壊と再生
  申し送り
  負の力
  負の言葉と私たち

夢幻能の一夜…………………………………………………………………安立清史
  「お婆」を探すお婆さん
  介護という夢幻能
  石をパンに変えてみよ
  新人さん、迫真の現場報告
    「よりあい」が自分たちを発見する瞬間
    タブーに触れる
  カオナシとハツさんの部屋
    夢幻能を通り抜ける

   
「私」の手放し……………………………………………………………… 村瀨孝生
  いのちの笑み
  脳トレ
  降りてくる
  「私」の手放し

老人性アメイジング ………………………………………………………安立清史
  こんなになって……
  どうして・どうして・と考えている人たち
  受け入れられないことを受け入れる――死の受容・老いの受容
    老人性アメイジング
  私を手放す
  戦わない・戦い方/乗り越えない・乗り越え方
 
   
まるごとのいのち ………………………………………………………… 村瀨孝生
  「死にたい」でも「生きたい」でもない境地へ
  体同士の交流
  自意識から解放される

勝手にやってくる希望 …… ………………………………………………安立清史
  夜汽車と銀河鉄道
  「宅老所よりあい」の軌跡
  底辺にふれる
  「今、ここ」の世界
  しない・を・する
  永遠と一日
  勝手にやってくる希望

安立 清史

あだち・きよし

1957年、群馬県生まれ。九州大学名誉教授。「超高齢社会研究所」代表。専門は、福祉社会学、ボランティア・NPO論。著書に、『福祉の起原』(弦書房、2023)、『ボランティアと有償ボランティア』(弦書房、2022)、『21世紀の《想像の共同体》―ボランティアの原理 非営利の可能性』(弦書房、2021)、『超高齢社会の乗り越え方―日本の介護福祉は成功か失敗か』(弦書房、2020)、『福祉NPOの社会学』(東京大学出版会、2008)、『介護系NPOの最前線―全国トップ16の実像』(共著、ミネルヴァ書房、2003)、『ニューエイジング:日米の挑戦と課題』(共著、九州大学出版会、2001)、『高齢者NPOが社会を変える』(共著、岩波書店、2000)、『市民福祉の社会学―高齢化・福祉改革・NPO』(ハーベスト社、1998)など。