市原猛志
【旧西置賜郡役所(1878年竣工)山形県長井市】
新潟から山形県長井市へは、JR米坂線などを経由して3時間程度かかる。長井を含めた山形県内陸部は、置賜地方という名称で知られ、江戸時代は米沢藩の支配下にあった地域でもある。今回、私市原を含め数名の友人たちで撮り集めた近代建築写真展・「まちかどの近代建築写真展」(長井市の開催は2016年10月30日-11月6日)の全国巡回会場のひとつとして訪れた長井市は、花の町として売り出しており、つつじ公園やあやめ公園など花の名を冠した公園が各所に在る。
今回紹介するのは、写真展の会場としても使用した旧西置賜郡役所である。建物としては1878(明治11)年に建てられ、全国に遺る郡役所建築のなかでも2番目に古いものである。左右対称の作りはいかにも役所という感じがあるが、特徴は玄関部分に付けられた虹梁と木鼻である。これらは、ともに社寺仏閣建築に多く用いられるもので、本格的な洋風建築では当然使用されない。建築の勉強を少しでもやった人間なら、まずおかしいとみるような所なのだが、これは明治期の大工が見よう見まねで西洋建築を造った痕跡と考えられている。
このような近代初期に造られた大工の手による建物を擬洋風建築と総称するが、この旧西置賜郡役所はまさに擬洋風建築の典型的なものと言えよう。現在は小桜館という名称で地域の公民館的施設として使用されている。