小さな家族の歴史と記憶――日本のどこにでもある家族の戦争と戦後がここにある。
著者は、昭和13年に中国で戦死した祖父の日記に静かに耳を傾ける。名誉ある戦死をとげねば故郷の家族に迷惑がかかる、だから「戦争は家族のためですよ」と言った元日本兵や「軍隊は軍隊を守るために存在する」と言い放った元日本兵の言葉に衝撃をうける一方で、祖父が戦死した中国の現地へも取材を試みる。当時を知る中国人たちの肉声から耳をそらさず正面から受けとめる。平和を生き抜くための言葉を祖父の声=日記と中国現地の人々の暮らしの中に探す、心の旅の記録。
Ⅰ わが祖父の日記のこと
Ⅱ 正直に生きる―出征前夜(昭和五年から十三年)
・昭和五(一九三〇)年の日記
招魂祭/麦蒔き/米相場
・昭和七(一九三二)年の日記
召集される若者たち/春の野良/愛するツギさらば
・昭和八(一九三三)年の日記
砂漠の中のルビー/百姓の手/我が心の妻を待つなり
・昭和九(一九三四)年の日記
干ばつの夏/分水陳情/軍国日本の秋、異状なし
・昭和十二(一九三七)年の手紙
熊本陸軍病院/一等兵を命ぜられました
Ⅲ 祖父の戦争、家族の戦後
・昭和十三(一九三八)年の日記
門司出港/日中戦争勃発から一年/メイヨノセンシス
・戦地巡歴―中国・太湖の町へ
上陸地点・安慶/潜山の街/中国での取材の難しさ
Ⅳ 戦後は今も続いている
遺族たちの戦中と戦後/祖父の声がする
井上 佳子
放送局にてハンセン病、水俣病、戦争などのドキュメンタリーを制作。著書に『孤高の桜―ハンセン病を生きた人たち』(葦書房、第19回潮賞ノンフィクション部門受賞)『壁のない風景―ハンセン病を生きる』(弦書房、第21回地方出版文化功労賞奨励賞受賞)『三池炭鉱「月の記憶」』(石風社)。