市原猛志
【旧神戸市立生絲検査所/1927年竣工(本館)/神戸市中央区/鉄筋コンクリート造4階建】
かつて神戸を中心に日本最大級の企業グループとして隆盛を誇った鈴木商店。現在も双日や帝人、神戸製鋼所など多くの企業が鈴木商店を源流に持っているが、昭和恐慌のあおりを受け倒産した影響もあり、歴史的な検証はいまだ途上だ。
そのような鈴木商店の歴史を後世に伝えるべく、企業関係者を中心にWeb上で「鈴木商店記念館」が作られた。私もコンテンツ執筆に協力し関係しているが、今回、記念館の講演会があるというので、別件のついでに神戸へ伺った。会場はかつての生糸検査所で、港町にふさわしく、内部は大量の生糸を捌くだけの広々とした空間が確保されている。
正面入口のファサードや内装は重厚な尖頭アーチなどを持つネオゴシックの系譜に属する。とはいえ、昭和期に入ってつくられた外観は、装飾を極度に簡素化しておりアメリカ摩天楼建築のそれをも思わせる。2009年には日本建築学会から保存要望書を出され、現在はアートスペースを中心とした複合施設として利用されている。