本書は一般的な戦争体験記ではない。太平洋戦争末期(1944)のルソン島から捕虜収容所を経て奇跡的に生還した兵士(語り手)と著者(聞き手)との絶妙な関係性から生まれた戦場の漂流記である。1960年代後半に、語り手・半田正夫さんと著者・稲垣氏はトカラ列島(中之島)で出会っている。この本は半田さんが自身の心に刻みつけた記憶を、他の誰でもない稲垣氏に語り尽くすことを切望してまとめられた。ユーモアに満ちた語り、過酷な状況の中でも必ず「希望」を見出したそのしたたかさに感銘と爽快感を覚える稀有の書。
Ⅰ わたしは学校が嫌いです
大牟田生まれの与論育ち
強運の始まり
Ⅱ 人間の運ちゃあ、わからんもんですよ
フイリッピンへ
とうとう最後の三人になった
Ⅲ それでも人一倍元気やった
ルソン島上陸
腹痛の特効薬は歯磨き粉
Ⅳ 空の飯盒を抱えて離さない死にゆく兵
ポケットの中のゴミが重い
イゴロット族から食糧徴発
Ⅴ えらい国に還って来た
収容所ではビニールに驚く
桁違いの機動力
快人二人――語り手と聞き手との間には
(前山光則)
稲垣 尚友
1942年生まれ。トカラ諸島(臥蛇島、平島)での暮らしをへて、現在、竹細工職人。著書に『密林のなかの書斎――琉球弧北端の島の日常』『十七年目のトカラ』(以上、梟社)、『山羊と焼酎』『悲しきトカラ』(以上、未來社)、『青春彷徨』(福音館)、『日琉境界の島 臥蛇島の手当金制度』(CD版本 NJS出版)、『灘渡る古層の響き――平島放送速記録を読む』(みずのわ出版)、『臥蛇島金銭入出帳』(ボン工房)、『戦場の漂流者・千二百分の一の二等兵』『占領下のトカラ――北緯三十度以南で生きる』(以上、弦書房)などがある。
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