江戸初期、蘭学(オランダ語を介して西洋の知識・技術を学ぶこと)は長崎・出島のオランダ通詞たちによって始められていました。杉田玄白の『解体新書』(1774)より100年近く前のことです。蘭学は、東洋の文化を見直す契機となったのか、あるいは、西洋文化を至上とするオリエンタリズムに偏重していく近代化の基礎となったのでしょうか。
本書では〈九州〉が蘭学を発展させる重要拠点だったことをふまえて、その成立の時期や定義、学術的内容、時代背景等を、蘭学研究の第一人者が明快に解説しています。
【書評等掲載情報】
図書新聞2022年10月15日(土)付 八百啓介・北九市立大学文学部教授
長崎新聞2023年9月11日付 山口晶子・共同通信記者
琉球新聞2023年9月4日付 同
高知新聞2022年9月3日(土)付 同
熊本日日新聞2022年7月10日(日)付 平岡隆二・京都大准教授
Ⅰ 「蘭学」とは何か
「蘭学」学習の様子 /板沢武雄による「蘭学」概念の整理 /「蘭学」とは何か /「蘭学」の濫觴 /福沢諭吉の仕掛け
Ⅱ 「蘭学」の背景としての近世の国際関係と中華思想
日蘭交流のはじまり /中華思想と近世日本 /「鎖国令」は存在しない /幕府の対外認識 /出島と阿蘭陀通詞
Ⅲ 「蘭学」の黎明
蛮学に憚り無し /任務としての通訳・翻訳 /江戸時代の外国人観 /西洋の世界観の導入 /台頭する「江戸蘭学」 /情報の集積・交流・発信地としての「江戸」 /上田秋成と本居宣長の論争 /西夷視される「蘭学」 /宇宙への視座と「蘭学」
Ⅳ 「蘭学」の革命
「蘭学」の革命児・志筑忠雄 /ニュートン物理学書の翻訳 /『鎖国論』の誕生 /『鎖国論』の元となったケンペル論文の内容 /志筑忠雄『鎖国論』の波紋 /原文からの変容 /国際情勢の予見 /オランダ語の訓読 /オランダ語読解の革命 /典拠としたオランダ語文法書 /『蘭学生前父』とは何か /和訳法の理念と実際 /『蘭学生前父』の構成 /和訳の真髄 /江戸へ伝播する志筑蘭語学
Ⅴ 「蘭学」の九州
大名の蘭書購入 /薩摩藩の「蘭学」政策 /福岡藩の「蘭学」政策 /中津藩の蘭和辞典編纂事業 /中華思想からオリエンタリズムへ /全国から「長崎」へ /「長崎」から全国へ /熊本藩の「蘭学」 /「軍事科学」の時代へ
Ⅵ 「蘭学」の終焉
大島 明秀
1975年生まれ、歴史学者。九州大学大学院比較社会文化学府国際社会文化専攻博士後期課程修了。博士(比較社会文化)。熊本県立大学講師、准教授を経て、同大学教授。著書に『細川侯五代逸話集―幽斎・忠興・忠利・光尚・綱利―』(2018、熊本日日新聞社)、『「鎖国」という言説—ケンペル著・志筑忠雄訳『鎖国論』の受容史—』(2009、ミネルヴァ書房)、『天然痘との闘い 九州の種痘』(共著、2018、岩田書院)、『近世日本の国際関係と言説』(共著、2017、渓水社)、『九州という思想』(編著、2007、花書房)、『蘭学のフロンティア―志筑忠雄の世界』(共著、2007、長崎文献社)他。