新聞からみた1918
大正期再考

288頁
978-4-86329-277-2
定価 2200円 (+税)
2023年10月30日発行
紹介

大正期(1912~1926)の中でも「1918年」という年は実にいろいろな出来事があった。本書では、その「1918年」が特別な年、すなわち歴史的な一大転機の年だったという考えに立ち、➀第一次世界大戦、➁米騒動、➂シベリア出兵、④スペインかぜ、⑤寺内正毅内閣から原敬内閣へ、という五つのテーマによって、日本近代の折り返し期として、その時代をとらえ直した画期的な一冊。手法も独特で、新聞資料(全国紙、地方史、極ローカル紙)によって時代を描いている。同時代に身を置いたような臨場感が伝わってくる。

目次

序 章 大正とはどんな時代だったのか
明治と昭和のはざま /桂園時代から大正政変/ヨーロッパの火薬庫/第一次世界大戦/日本の参戦と日本の中国進出/日本海軍の地中海派遣/パリ講和会議/ワシントン体制と協調外交/大戦景気と戦後恐慌/様々な社会運動/大正期の文化/天皇機関説と民本主義/「大正デモクラシー」

第一章 第一次世界大戦と格差・革命
1.大戦景気と格差・社会政策
「経済界は誇大妄想」/成金の群/細民の群/成金と細民―資本主義と格差/社会政策の必要性/大阪市の公設市場/「公設市場の社会施策的価値」/全国に広がる公設市場 
2.第一次世界大戦と日本
「世界未曾有の大戦争」/「大戦四年間の犠牲」/「人間素質の低下」/総力戦と「次の戦争準備」/軍国主義との戦いか/戦争と資本主義/「講和と平和同盟」/休戦と「冷淡な日本人」/講和とアメリカ脅威論
  3.ロシア革命と日本
二月革命と十月革命/新聞のロシア革命観/レーニンの人物像/戦争と革命と「改造」 

第二章 米騒動
1.米騒動とは何か
広義の「米騒動」/ヨーロッパの穀物価格上昇と食糧騒擾/中国長沙の「米騒動」/朝鮮の「米騒動」
2.米価高騰と「米騒動」
第一次世界大戦中の米価上昇/政府の「米価調節」策と限界/通貨量の膨張と米価/外米関税撤廃問題/米価調節(値下げ)反対/物価騰貴と「中流階級」の没落/陸戦隊上陸と米価/シベリア出兵と米価/「出兵宣言」と米価
3.米騒動の諸相
街頭騒擾型「米騒動」のはじまり/政府の認識と対応/「騒擾の報道禁止」とマスメディア/米価高騰と同盟罷業(ストライキ)/政党は何をしていたのか/与謝野晶子の「米騒動」/米騒動のその後
4.佐伯町の米騒動
『大分新聞』の報道/佐伯町の米価/「米価と諸物価」/「救済団」の結成とその目的/白米廉売「町民勝利」/渦巻く不満、新聞の投書欄から/二四日の米騒動/佐伯町の米騒動
5.米騒動――同時代の評価
政府の「暴動観察報告」/外国紙の評価/佐々木惣一「米騒動の教訓」/貧弱なる教育/「民衆運動」としての米騒動/米騒動とシベリア出兵/終わらない米騒動

第三章 シベリア出兵
1.シベリア出兵論の浮上と変遷
シベリア出兵の「真の目的」/シベリア出兵論の発生と論拠の変遷/『万朝報』の出兵論/末広重雄の出兵反対論/末広が恐れた出兵の結末/民間の出兵促進運動/『大阪朝日』の反対論/日本人居留民と「北のからゆきさん」/石戸事件と陸戦隊の上陸/ブラゴベシチェンスク事件と世論/出兵問題とアメリカ不信/シベリア出兵と資源開発/日華共同防敵軍事協定とシベリア出兵/チェコ軍救出目的の出兵へ/出兵をめぐる世論/出兵宣言とその評価/動員令下る
2.シベリア出兵と大分―大分連隊の動員
大分連隊(第一二師団七二連隊)に動員令/「戦闘以上の苦痛」と兵力削減/ユフタの悲劇とイワノフカ村の惨劇
3.佐伯町のシベリア出兵と「戦地通信」
「識者に訴う」/阿南卓の「戦地通信」/ウラジオストクからスパスカヤへ/ハバロフスクからゼーヤーへ/敵地に座すを得ず/ハバロフスクの野戦病院にて/出兵兵士の凱旋/ユフタの戦死者

第四章 スペインかぜ
1.スペインかぜとは
スペインかぜ/スペインかぜの発生と感染の拡大/日本への上陸/本格的な流行/東京「到る所猖獗を極む」/大阪「全市小学校閉鎖」/「鳥羽大暴動」とワクチン騒動」
2.大分県の場合
高い致死率/流行がはじまった/爆発的な感染拡大/社会インフラの機能不全/繁昌する商売/人口動態への影響/大分県の対応/大分県警察部の対応/大分聯隊の奇跡/秋山生「流行性感冒に就て」
3.佐伯町のスペインかぜと衛生思想
佐伯町のスペインかぜ/ 感染症と避病院/ 衛生思想の普及/なぜ忘れ去られたのか 

第五章 寺内内閣から原政党内閣へ
1.寺内「非立憲」内閣とは
政権交代と「デモクラシー」の行方/寺内内閣の成立/寺内「非立憲内閣」とは/寺内内閣の「非立憲」ぶり/外交調査委員会/援段政策(対中国外交)/西原借款と西原亀三/西原借款とは何だったのか/内政をめぐって―第四〇帝国議会
2.寺内内閣vs 新聞――白虹事件
寺内内閣と新聞/言論弾圧と新聞操作/シベリア出兵と報道規制/新聞の寺内内閣批判/米騒動の報道禁止と『大阪朝日』/新聞社の「宣戦布告」/白虹事件(大阪朝日筆禍事件)/『大阪朝日』の「敗北宣言」
  3.原政党内閣の成立
寺内内閣と政友会――是々非々主義/政友会は何を目指したか/政権継承の資格/原内閣待望論/原の人物像/原内閣の成立/新聞の評価と注文/原政党内閣と「デモクラシー」

大正時代年表(一九一二~一九二六)

著者

長野 浩典

ながの ひろのり

1960(昭和35)年、熊本県南阿蘇村生まれ。1986(昭和61)年、熊本大学大学院文学研究科史学専攻修了(日本近現代史)。歴史研究家・作家。主要著書 『街道の日本史 五十二 国東・日田と豊前道』(吉川弘文館)『熊本大学日本史研究室からの洞察』(熊本出版文化会館)『緒方町誌』『長陽村史』『竹田市誌』(以上共著)『大分県先哲叢書 堀悌吉(普及版)』(大分県立先哲史料館)『ある村の幕末・明治―「長野内匠日記」でたどる75年』『生類供養と日本人』『放浪・廻遊民と日本の近代』『西南戦争民衆の記―大義と破壊』『川の中の美しい島・輪中―熊本藩豊後鶴崎藩からみた世界』『感染症と日本人』『花山院隊「偽官軍」事件―戊辰戦争下の封印された真相』『新聞からみた1918―大正期再考』(以上弦書房)     

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