経済と欲望の論理が勝ち過ぎている現代において、経済学に与えられた課題とは何かを、重層的にわかりやすく論じた一冊。特に、石牟礼道子の精神世界にふれながら風土と一体化した経済に言及した章や、柳宗悦の「用の世界」に「美と道徳と経済の調和」を見出した章などは、本書の特色となっている。
序 章 経済学が直面している課題とは何か―本書の構成と素描
第一部 人間の経済への接近
第一章 人間の経済と「市場」―K・ポランニーの本来的市場論の構造
第一節 二つの市場―本来的市場と近代的市場
第二節 本来的市場と三つの原理―非競争・非膨張の原理、必要・補完原理、互酬原理
第三節 質的等価の社会経済学
第四節 人間の経済と二重運動
第二章 石牟礼道子の精神世界と現代文明―人間・風土・神々の円環構造の文明論的意味
第一節 水俣病問題と現代文明
第二節 人間存在への根源的問い
第三節 自然風土への憧憬
第四節 神々への憧憬
第五節 次なる文明への架橋
第三章 東日本大震災・原発事故と文明論的課題―生と死の社会経済学
第一節 社会の崩壊
第二節 大震災・原発事故と生の問題
第三節 死と死者への想い―死のもつ問題性
第四節 生と死を繋ぐもの―霊性的自覚と共助・共立の精神
第五節 文明と風土的文化の二重運動
第二部 柳宗悦の経済思想―用の経済学
第四章 日本文明の基層と柳宗悦の世界―手仕事における美と道徳と経済の調和
第一節 現代文明の歴史的特殊性
第二節 美と経済の調和
第三節 道徳と手仕事の世界
第四節 文化としての経済と柳の宗教哲学
第五章 柳宗悦の「用の世界」論―重層的価値世界の構造
第一節 現代文明の歴史的特殊性
第二節 美と経済の調和
第三節 文化論的次元における用の世界
第四節 人道論・宗教論的次元における用の世界
第五節 重層的価値の世界
補章 柳宗悦の「こころの経済学」―経済原理としての「物心一如の世界」
第一節 混迷する市場経済―経済発展(量の世界)から定常型社会(質の世界)へ
第二節 定常型社会論の検討―学史的検討とその継承
第三節 柳宗悦の思想における「物心一如の世界」
第四節 「物心一如の世界」の経済的仕組み―半市場の原理
第五節 「物心一如の世界」における「貧の富」の意味
第三部 風土の思想と経済
第六章 風土と経済―風土といのちの産業としての農業の再生
第一節 環境・風土問題への接近
第二節 現代の経済原理と環境・風土問題
第三節 農業の変容の実態とその意味
第四節 風土といのちの産業としての農業
第五節 風土型経済の思想・精神世界
第七章 風土の思想と経済学―民話の世界の経済学
第一節 存在の希薄な時代
第二節 日本人の豊かな精神性―東山魁夷と平山郁夫の精神世界
第三節 日本の近代化とは何であったのか―風土からの自由
第四節 風土の思想と民話の世界―民話の世界の経済学
第五節 風土型経済の再生の意味
第八章 伝承と創造の経済学―「生における死と再生」の思想
第一節 空洞化する精神世界
第二節 イニシエーション儀礼と「生における死と再生」の思想
―M・エリアーデの所説について
第三節 民話と「生における死と再生」の思想
第四節 現代精神における霊性化の可能性
第五節 伝承と創造の経済とは何か
第四部 文明転換の可能性と方向性
第九章 柳宗悦の不二の思想―新型コロナ問題に関連して思考すべきこと
第一節 現代社会の風景―病としての風景
第二節 新型コロナ問題の特殊歴史性―知の時代から心の時代へ
第三節 柳宗悦の不二の思想の構造
第四節 不二の世界の実相
第五節 不二の世界の再生に向けて
第一〇章 文明転換と経済人類学―現代文明の死と再生の道程
第一節 解体の対象としての近・現代コスモス
第二節 井筒俊彦のコスモス論
第三節 石牟礼道子の「もうひとつのこの世」の実在性
第四節 経済人類学の役割
第五節 「原型コスモス」への回帰と再生
あとがき/参考文献/初出一覧/索引