金子堅太郎 
伊藤博文の懐刀(ふところがたな)

384頁
978-4-86329-321-2
定価 2300円 (+税)
2026年1月発行
紹介

金子堅太郎という人物の業績の大きさを記録した資料が関東大震災(1923)で焼失してしまったため、金子本人が著した「自叙伝」(未刊)の他に評伝はない。本書は、近代日本の形成期に日本と日本人の在り方を構築しようと奔走した稀有の人物の足跡を追った初の評伝。伊藤博文に見出され、彼の懐刀として、大日本帝国憲法制定を補佐。日露戦争時に米国大統領ルーズベルトに日本支持の要請を実行し、官営八幡製鉄所の誘致を政財界の中心メンバーとして行うなど多方面にわたる功績を長年の調査と膨大な文献をもとにまとめた画期的な一冊。

目次

 Ⅰ 金子を育んだ土壌と時代

第一章 金子家再興の期待を背負う
金子家の系譜 /姪浜への潜居 /鳥飼村への移住 /金子家再興を願って武士の株を買う /槍を立てさせ登城する /武士の子としての基礎教育 /正木昌陽の塾に学ぶ /父譲りの美術品を見極める眼力 /脱藩浪士・平野國臣の出現 /藩校修猷館への入学 /福岡藩の政変・乙丑の獄 /修猷館の休学、そして復学 /父の死、貧窮と屈辱に耐える /秋月藩への遊学、再び修猷館へ /藩校修猷館の教育改革 /福岡藩贋札事件 /福岡藩奨学生として東京に遊学 /近代化の先駆け東京で /藤野正啓の塾に入る /藤野の塾を退塾 /福岡藩贋札事件の結審

  Ⅱ 新興国アメリカに学ぶ

第二章 アメリカ留学
平賀義質の学僕となる /老公黒田長溥の叡知 /洋食というアメリカ留学前の試練 /岩倉具視の使節団に便乗する /佐幕に倒幕が呉越同舟する珍道中 /裁判長伊藤博文の判決 /船旅の問題、感動、疑問 /サンフランシスコに上陸 /豪雪と闘いながらの大陸横断鉄道の旅 /岩倉具視のマゲ、衣装騒動 /ボストンでの生活始まる /急遽、日本に引き返す大久保利通と伊藤博文 /ライス・グランマー・スクールに編入学する /新興国アメリカの人権とは /初めてのクリスマス /森有礼の訓令 /上級学校への進学準備 /卒業式を目前にして死に直面 /卒業、別れ、そして次なる策謀に向けて /イングリッシュ・ハイスクールに入学 /演説に目覚める /続く演説の研究 /ハーバード大学入学準備 /フィラデルフィア博覧会を見学

第三章 ハーバード大学時代
ハーバード大学同窓生の小村寿太郎と同衾 /電話機のグラハム・ベルの実験に立ち会う /伊澤修二の「ちょうちょう」に大爆笑する /アメリカ社交界で頼山陽を紹介する /西南戦争と老公黒田長溥 /詐欺被害に遭った岩倉使節団 /アジアの為に支那人排斥問題で反論 /さらばアメリカ、ハーバード大学を卒業 /アリスン一家との別離、日本への帰国

  Ⅲ 人脈形成と応用

第四章 猪突猛進の時代
帰国、そして不可解な平賀義質の面会謝絶 /旧藩主黒田家の苦衷 /團琢磨と懐かしき故郷に帰る /母との再会 /記憶の時差ボケ解消も兼ねて /福岡県令渡辺清の紹介状を得る /司法省官吏を蹴る /大学予備門で高橋是清と同僚になる /避暑先の日光で馬場辰猪と議論 /変革の時代には学問が必要 /晴れて元老院官吏となる /人事異動で大木喬任に立腹 /黒田家の家政を任される /黒田家に出入りする福澤諭吉 /山田顕義の密命を受け各地の事情調査を行なう /東京師範学校の要請で行政法を講義する /安場保和との深い交友の始まり

第五章 伊藤博文の側近として
伊藤博文の呼び出し /老公こと黒田長溥に諌言 /馬を自宅に備える /華族令から黒田家の家憲を制定する /黒田家旧家臣を前にして /伊藤博文の側近として /帝国大学の教壇に立つ /大恩人の老公の死 /伊藤博文主催の仮装舞踏会を傍観する /大隈重信の政権復帰 /保安条例特例の後藤象二郎 /セオドア・ルーズベルトへの紹介状 /日本法律学校の校長に就任 /大隈重信を叱責する金子

  Ⅳ 日本の土台作り

第六章 帝国憲法草案
佐々木高行の疑問に応える /明治天皇の国会開設詔勅の裏側 /東伏見宮に酒を強要される /山田顕義の引き抜きを止める佐野常民 /伊藤博文との国体論議 /井上毅、伊東巳代治と無休で働く /伊藤博文を捨て置く /黒田清隆首相誕生の背景 /森有礼が暗殺された憲法発布の日

第七章 八幡製鉄所 平岡浩太郎を帯同しての炭鉱調査 /郷土福岡県の将来を思っての大演説 /本人不在で團琢磨は三井に /渋澤栄一、益田孝が注目する筑豊 /ロシアとの一戦に備えての製鋼所整備 /製鋼所誘致に懸命の玄洋社 /宿老田中熊吉の「湯だし」に沸く八幡製鉄所開所式

  Ⅴ 国難に果敢に挑戦する

第八章 政府の閣僚、貴族院議員、枢密顧問官時代
遅れをとった大臣の道 /転がり込んできた大臣の椅子 /伊東巳代治との引き継ぎ、次官の選定 /隈板内閣出現の陰に平岡浩太郎 /隈板内閣崩壊の陰に星亨 /裏取引に応じる板垣退助 /東京株式取引所理事長に就任 /松方正義の日和見に怒る金子 /伊藤博文の心遣い /宿願の司法大臣の椅子に /司法官ストライキを鎮圧する金子 /伊藤博文、山縣有朋の確執の狭間で /桂太郎の腹芸 /菊池大麓に教育制度演 説のアドバイスをする /学習院院長乃木希典との交流 /桂太郎に煮え湯を飲まされる /幸徳秋水の大逆事件に関する感想 /世代交代の兆し、伊藤博文暗殺 /伊藤暗殺の顚末 /桂太郎に裏切られた内田良平 /桂太郎と山縣有朋の確執

第九章 日露戦争と金子堅太郎
マハンの海上権力史論に出会う /北清事変起きる /日英同盟の動き /切迫する日露関係 /御前会議での体制固め /対露同志会の動き /ルーズベルト大統領との交渉 /ポーツマス講和会議の舞台裏 /数多のアメリカ人の顕彰、シフを接待

第十章 日米の架け橋として
米友協会会長として /ルーズベルト大統領誕生に祝電 /日露戦争後の外交状況 /日米の架け橋となるべく交流を深める /アメリカ大西洋艦隊を歓迎する /在米邦人よりも関税を優先した桂内閣への不満 /ハーバード大学関係者との交流 /渋澤栄一の日米親善を支援 /日米衝突

  Ⅵ 華族としての責務と私人

第十一章 学術、芸術、芸能、郷土の発展に寄与
藩校修猷館の再興 /維新史編纂の責任者 /日本美術協会会頭 /能楽の再興 /アジア近代演劇の祖・川上音二郎を支援 /筑前琵琶中興の祖として /玄洋社系機関紙「福陵新報」を支援 /黒田家の栄誉と恩師への感謝
 
第十二章 金子と金子家の日常
波乱の結婚式 /義父の山田、長男誠一郎を喪う /妹芳子と團琢磨との結婚 /長女弥栄子、次男武麿の誕生  /弟の辰三郎と森鷗外の関係 /禅の境地に惹かれる /男爵という華族の仲間入り /母・安子の死 /義弟團琢磨の死 /ニューヨークタイムズに報じられる金子の死

[資料]金子堅太郎の日系移民排斥問題寄稿文について
金子堅太郎年譜
あとがき
主要参考文献・参考資料
主要人名索引 

著者

浦辺 登

うらべ・のぼる

昭和31年、福岡県生まれ。福岡大学卒。日本近現代史を中心に研究、執筆、講演、史跡案内を続けている。著書に『太宰府天満宮の定遠館―遠の朝廷から日清戦争まで』『霊園から見た近代日本』『東京の片隅からみた近代日本』『アジア独立と東京五輪―「ガネホ」とアジア主義』(以上、弦書房)。

弦書房より発行の関連書籍

東京の片隅からみた近代日本
明治四年・久留米藩難事件
太宰府天満宮の定遠館
勝海舟から始まる近代日本
アジア独立と東京五輪
新装版 霊園から見た近代日本
玄洋社とは何者か