本書は香港返還の2年前(1995)に香港で刊行された。19世紀の開港当初の香港を、幕末に漂流し流れついた漂民、明治維新後に遣欧遣米で経由した外交使節団、当初名を馳せたジャーナリストや作家・文人(福沢諭吉、森鷗外、矢野龍渓、徳富蘇峰など)による香港滞在記を広東語で紹介したものの抄訳となっている。
当時の日本人は香港についてどんな印象や見解を持っていたのか、「香港」の原点が浮かび上がってくる視点の広い記録集である。
第一篇 日本の漂民と香港
「モリソン号」に乗船し、帰国を果たせなかった日本人漂民たち
香港開港初年に立ち寄った「観音丸」の漂流船員
「永住丸」の船員弥市が見た香港
一八五〇年代初頭に香港を通過した「天寿丸」の漂民
「栄力丸」の水夫彦蔵らの経験
第二篇 幕末から明治初年にかけての遣米、遣欧使節団が見聞した香港
一八六〇年の遣米使節団の香港見聞
一八六二年の遣欧使節団の香港見聞
一八六四年の遣仏使節団の香港見聞
一八六五年の遣仏、英使節団の香港見聞
一八六七年のパリ万博へ派遣された一行の香港見聞
一八七三年の岩倉使節団の香港見聞
第三篇 十九世紀後半における各界人士の香港見聞
成島柳北の「航西日乗」
矢野龍渓の「矢野文雄通報」
森鷗外の「航西日記」
岡千仭の『観光紀游』
谷干城の「洋行日記」
徳富蘇峰の香港に関する旅行記と評論
陳 湛頣(チャン・チャム・イー)
1974年、香港中文大学崇基学院を卒業した後、日本の広島大学19801980年、香港に戻り、大学等にて日本語教育に従事。本書を上梓した頃は、香港大学日本研究学系にて教育に当たっていた。主たる研究領域は、日本語文及び日本文化研究で、著書に『日語應對』『日語應對續篇』等がある。近年の研究は港日関係にまで及んでいて、本書の刊行もその研究の一環である。
千島 英一
1947年6月生まれ。
国立台湾師範大学大学院国文研究科碩士課程卒業(文学碩士)。中国語方言学、中国言語文化論専攻。文学博士(金沢大学)。元熊本大学大学院教授、東京外国語大学非常勤講師、金沢大学国際交流シニアアドバイザー、NHKラジオ中国語講座応用編講師等を歴任。現在、公益財団法人マブチ国際育英財団奨学生選考委員。著書に、『香港広東語会話』(東方書店)、『東方広東語辞典』(東方書店)、『広東語動詞研究―「手放さずに持つ動作」を表す語をめぐって』(東方書店)、『広東語圏のことわざと文化』(東方書店)、『広東語―言語接触と借用』(好文出版)、『粤語雜俎』(好文出版)など。訳書に『ぼくにはまだ一本の足がある』(麗澤大学出版会)、『科学者が説く般若心経の智慧』(麗澤大学出版会)などがある。
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