第279回 今年も相撲見物

前山 光則

 11月19日から四日間、遠出をした。
 まず19日、午前6時50分に車で家を出て、福岡へ向かった。9時半頃には福岡市の娘のところへ着くことができて、そして車は置いて一人で先に福岡国際センターへ行った。そう、大相撲九州場所である。関取衆の取り組みは、十両が午後1時前後から、さらに幕内になると4時前あたりからだ。だが、幕下以下の連中の相撲も観ておかなくては、せっかく本場所へと出向いた甲斐がないじゃないか、というのがわたしの考え方である。
 10時半過ぎに館内へ入ると、三段目が相撲をしていた。三階の椅子席に座って館内をグルリと見渡したが、まだ観客はまばらである。しばらくしてトイレに立ったら、通路で東三段目64枚目の光源治が四股を踏んでいた。出番前のウオーミングアップをしていたのである。去年出会った時は彼はまだ序二段だった。その時は「今日、どうだった?」と声をかけたら、「負けました」、首をうなだれた。「頑張らんといかんバイ!」と励ましておいたのだったが、今年は雰囲気が違った。体がグンと逞しくなり、顔つきもいかめしいので、つい「あのー、頑張ってくださいね」と遠慮しいしいの言い方になってしまった。 やがて、光源治が土俵に上った。相手は阿光という力士である。「行ケ行ケ、ヒカルゲンジー!」、今度は精一杯のドラ声で声援を送った。そしたら、ドスンと当たった後のハズ押しになっての攻めがとても厳しい。アッという間に相手を土俵の外へ押し出してしまった。「良イゾ、ヒカルゲンジー!」と大声を上げて、我ながら興奮しているのだった。1年の間に彼はずいぶん強くなったと思う。
 午後1時過ぎになって、ようやく女房と娘と気の置けぬ友人もやってきて、それからは4人で昼飯の弁当をつついたり、声援を送ったり、思い思いに下へ下りて行って相撲グッズ店を冷やかしたりした。いや、女性陣は関取連中が場所入りする場面や通路で出番待ちする姿やらが見たくて、結構うろついていた。「勢(いきおい)は美男子ねえ」「うん、正代もなかなかよ」「お相撲さんの肌はきれいねえ」「触ろうごたる」などと、たいへんミーハーである。だが、テレビで観戦するより直かに観に来ているからそのような観察もできるわけで、それで良いのだ。隣りに来ていた若い「相撲女子」たちも「千代丸はカワユイー!」「弟(千代鳳)の方もなかなかヨ」などと無邪気に言い合っていたからなあ。
 なんにしろ、本場所を見物に来ると力士たちのぶつかり合う迫力が魅力だし、大銀杏姿や鍛え抜かれた逞しい体が実に美しい。もっとも、横綱・白鵬が嘉風と対戦した時、白鵬はサッと左へ体を躱(かわ)して、送り出し。負けた嘉風は何もできなかった。大横綱、それはないよ。小兵力士に対して自信がなかったのかね? 実に後味悪ーい一番であった。
 
 
 
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▲光源治(註・「源氏」ではない)が土俵に上がる。番付上は東方の力士だが、この日は西方から土俵に上がった。スリムな体つきながら、昨年よりも逞しくなってきている。表情も鋭い。この日以後も健闘して、今場所の戦績は4勝3敗

 
 
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▲ひよの山。大相撲のマスコットキャラクター「ハッキヨイせきとりくん」の一つで、とても人気があり、一緒に記念写真を撮りたいというファンがとても多い。わたしも去年は一緒に写った。ひよの山のライバルとして、赤鷲という悪役顔のキャラクターもいる

 
 
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▲宇良と千代丸。小兵の宇良に対して、大きな千代丸。対照的というか、マンガみたいで愉快だった。宇良が、立ち合ってすぐにはたき込みで千代丸を下した。宇良に対しては「宇良、イゾレ、イゾレ!」との声援が盛んに飛ぶが、学生時代と違って居反りはなかなか出さない

 
 
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▲白鵬の土俵入り。横綱の土俵入りの様式には不知火型と雲竜型があるが、白鵬は不知火型である。日馬富士も同じ様式で行なう

 
 
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▲櫓太鼓が鳴り渡る。全取り組みが終わって外へ出ると、もうあたりは暗かった。櫓太鼓がテンテコテンテコと鳴って、「はね太鼓」というのだそうで、「よく来てくれました、また来てくださいね」との気持ちを込めて叩くのだという