市原猛志
【新津油田動力室:二段式ナショナルポンピングパワー1号機:1909年設置/新潟市秋葉区/木造平屋建・鋼製薬研車他】
石油の掘削に際しては、エネルギーの効率化と省力化を図るため、集中動力を用いている。山間の動力室に設けられたポンピングパワーと呼ばれる大型の薬研車を介して、わずか30馬力ほどのモータで発生した動力をシーソーの原理を利用する形で多くの石油井戸に伝えられ、石油をくみ上げる仕組みが用いられている。
県道沿いから山道を登ると、原油を採掘していた櫓が何本も見えてくる。かつてはこれらの櫓からワイヤが張り巡らされ、それらが行き着く先が動力の源であるポンピングパワーとなるのだ。
薬研車は、確かにそれそのもの自体は直径8メートルあり、大規模なものではあるのだが、山全体と隣山にまたがる油田の広大な面積規模から考えれば、実に小さなもので動力の源であるモータも心許ないサイズである。しかしこの機械ひとつで25本に及ぶ油井を稼動させていたというから実に不思議で効率的な機構である。山裾にある石油処理施設群を含めて今の日本にはまったく失われた、貴重な産業景観といえよう。